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2025.05.27 院長ブログ

原因不明のめまい、慢性疲労、頭痛… もしかして「のどの奥の炎症」が関係しているかも?

その不調、もしかして“のど由来”?めまい・慢性疲労・頭痛は耳鼻咽喉科へ

「ぐるぐる目が回るようなめまいが続く…」 

「何をしても体がだるくて、疲れが取れない…」

 「薬を飲んでも改善しないしつこい頭痛に悩んでいる…」

こういった、体の辛い症状が長く続き、

病院で検査を受けてもはっきりとした原因が分からない… 

そんなお悩みをお持ちの方はいませんか?

そういった症状が耳鼻科の処置で改善する場合もあります。

めまいや慢性的なだるさ、頭痛は、様々な病気やストレスが原因で起こることがあります。

しかし、実は鼻の奥、

のどの一番上の部分にある「上咽頭(じょういんとう)」という場所の炎症が、

これらの症状と意外な関係があることが分かってきています。

今回は、あまり知られていない慢性上咽頭炎と、

めまい、慢性疲労、頭痛との関係についてお話ししたいと思います。

「上咽頭」ってどんな場所?

上咽頭は、鼻の突き当たり、口を開けて見える「のどちんこ」のさらに上にある、

鼻腔(鼻の穴の奥)と咽頭(のど)の境目にあたる部分です。

ここは、呼吸をする空気が必ず通る場所で、

外から入ってくる空気の温度や湿度を調整したり、

ウイルスや細菌などの病原体が体の中に入るのを防いだりする、

身体の免疫の最前線のような働きをしています。

「慢性上咽頭炎」とは?

この上咽頭に炎症が起き、

それが1ヶ月以上続いてしまう状態を「慢性上咽頭炎」と呼びます。

風邪などで一時的に上咽頭が炎症を起こすことはよくありますが、

炎症が慢性化すると、鼻の奥の症状だけでなく、

体のあちこちに様々な不調(不定愁訴)を引き起こす可能性があると考えられています。

慢性上咽頭炎とめまい、慢性疲労、頭痛の意外な関係

「鼻の奥の炎症が、どうしてめまいやだるさ、頭痛に関係するの?」と不思議に思われるかもしれませんね。

慢性上咽頭炎は、古くから多くの不定愁訴の原因となることが報告されています。

特に、1960年代には既に、

  • めまいや全身倦怠感(慢性疲労感)
  • 睡眠障害
  • 記憶力や集中力の低下
  • 適応障害

といった機能性身体症状と関連することが報告されています。

1960〜1970年代には慢性上咽頭炎の治療は盛んに行われていましたが、

1980年代からこれらの治療の報告は激減しました。

最近になり、研究会を立ち上げた先生たちのおかげで

また世の中で普及し始めた治療方法になります。

これらの症状(めまい感、慢性疲労感、頭痛を含む)は、

「機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)」

と呼ばれる病態に含まれます。

最近の研究では、慢性上咽頭炎が、

慢性疲労症候群(ME/CFS)や新型コロナウイルス感染後遺症(long COVID)など、

機能性身体症候群と呼ばれる病態において非常に高い頻度で見られることが

報告されており、その病態に上咽頭の慢性炎症が関与していると考えられています。

慢性上咽頭炎と、全身症状を引き起こす詳しいメカニズムはまだ研究レベルですが、
いくつかの考察がされています。

  • 自律神経の乱れ

    上咽頭の粘膜には、

    「自律神経」の繊維が豊富に分布しています。

    特に「迷走神経」という大きな関わりがあります。

    慢性的な炎症がこの迷走神経を持続的に刺激したり、

    その働きを妨げたりすることで、

    自律神経のバランスが乱れてしまうことがあります。

    自律神経の乱れは、心身の緊張を高め、身体の調節機能を狂わせるため、

    めまい・慢性疲労・頭痛などの様々な不調につながる

    可能性があると考えられています。

    実際に、めまいや頭痛、慢性疲労症候群を訴える慢性上咽頭炎の患者さんで、

    迷走神経の反応に異常が見られることが報告されています。

  • 脳脊髄液の流れの滞り

    2024年に雑誌Natureにて、

    脳で産生された老廃物を運び出す「脳脊髄液」の流れに、

    上咽頭のリンパ組織が重要な役割を果たしていることが分かってきました。

    慢性上咽頭炎による腫れや炎症が、

    この脳脊髄液の流れを滞らせる(リンパ流のうっ滞)ことで、

    脳脊髄液圧の上昇を引き起こし、

    脳の機能(特に視床下部-大脳辺縁系)に影響を与え、

    めまいや慢性疲労を含む多彩な中枢神経症状(機能性身体症状)が

    出現すると考えられています。

    慢性疲労症候群やlong COVIDの患者さんでは、

    リンパ流のうっ滞による脳脊髄液圧上昇が見られることが報告されています。

出典:Nature (2024), DOI: 10.1038/s41586-023-06899-4

これらの要因が複雑に絡み合うことで、

めまいや慢性疲労、頭痛といった症状として感じられるのではないかと考えられています。

慢性上咽頭炎の治療法 「EAT療法(Bスポット療法:上咽頭擦過療法)」

慢性上咽頭炎に対して行われる治療法の一つに、

「EAT療法(Epipharyngeal Abrasive Therapy)」があります。

これは、かつて「Bスポット療法」とも呼ばれていました。

主に塩化亜鉛などの薬剤を染み込ませた綿棒を使って、

炎症を起こしている上咽頭の粘膜を優しく擦過(こする)する治療法です。

最近では、内視鏡で上咽頭の状態を直接見ながら、

より安全かつ正確に処置を行う「内視鏡下上咽頭擦過療法(E-EAT療法)」も

行われるようになりました。

当院ではこの治療を安全に行うこと、

評価をしっかりとしながら治療ができる点において、

内視鏡下EAT療法を行っています。

EAT療法はめまい、慢性疲労、頭痛の改善に期待できる?

この治療を受ける前に、必ずそれぞれの専門の診療科にて検査をしてもらう必要があると

当院では考えています。

様々な検査を受けて診断がつかない場合、

可能性の一つとして慢性上咽頭炎があると判断しています。

EAT療法は、慢性上咽頭炎に関連する様々な症状に対して効果が期待されています。

慢性上咽頭炎に関連する症状の中には、めまい感、慢性疲労感、頭痛といった症状が

含まれており、これらの症状が改善する可能性が過去の論文からも示唆されています。

例えば、機能性身体症候群の患者さんを対象とした報告では、

EAT療法によって症状の改善が見られたとされています。

特に、慢性疲労症候群の患者さんの症状改善(ITO先生の報告では86.8%の改善)や、

HPVワクチン接種後に機能性身体症状(頭痛や全身倦怠感、めまい、全身痛などを含む)を

呈した若い女性の症状改善(81%に改善あり)と報告されています。

また、ある耳鼻咽喉科クリニックでの検討では、

慢性上咽頭炎と診断された患者さんに対してEAT療法(生理食塩水での鼻うがい併用)を

行った結果、頭痛、めまい、肩こりを含む自覚症状のスコアが有意に改善した

ことが報告されています。

この報告では、主訴(患者さんが一番困っている症状)の改善率が79.5%でした。

全体として、慢性上咽頭炎の患者さんの約8割で、

上咽頭の局所的な所見や自覚症状の改善が期待できるという報告があります。

局所所見の改善と自覚症状の改善には有意な相関があることも示されており、

上咽頭の炎症を抑えることが症状改善につながると考えられます。

EAT療法はなぜめまい、慢性疲労、頭痛に働く可能性があるの?

EAT療法がこれらの症状に効果をもたらすメカニズムとしては、

主に以下の3つの作用が考えられています。

これらの作用が、めまい、慢性疲労、頭痛のような症状にも良い影響を与えていると考えられます。

  1. 炎症を抑える作用

    上咽頭の慢性的な炎症を鎮める効果が期待できます。

    炎症が軽減することで、全身への影響が少なくなる可能性があります。
  2. 血行やリンパ・脳脊髄液の流れを改善する作用

    炎症を起こしている上咽頭では、

    粘膜の下に血液や組織の水分、炎症性物質などが滞りやすくなっています。

    EAT療法によって、これらの滞ったものが排出され、

    血行やリンパの流れが改善されることが期待されます。

    これは上述した脳脊髄液の流れの改善にもつながると考えられており、

    めまいや慢性疲労といった症状にも良い影響を与える可能性があります。
  3. 自律神経を整える作用(迷走神経刺激作用)

    上咽頭への物理的な刺激が、迷走神経に働きかけ、

    乱れた自律神経のバランスを整える効果があると考えられています。

    自律神経のバランスが整うことは、心身の緊張を和らげたり、

    身体の機能調節をスムーズにしたりするため、

    めまい、慢性疲労感、頭痛の改善につながる可能性があります。

    EAT療法は、迷走神経を刺激する治療法の一つとも考えられています。

    これらの作用が複合的に働くことで、上咽頭の状態を改善し、

    結果としてめまい、慢性疲労、頭痛といった全身の不調の改善に

    つながる可能性があると推察されています。

当クリニックでは

東京都大田区に

西馬込あくつ耳鼻咽喉科

馬込駅前あくつ小児科耳鼻咽喉科

東京都品川区に

大井町あくつ耳鼻咽喉科

の3院がありますが、どの曜日・時間帯・場所でもEAT療法が可能となっています。

長引くめまい、慢性疲労、頭痛や、その他原因がはっきりしない不調には、

慢性上咽頭炎の可能性も考えられます。

当クリニックでは、内視鏡を用いて上咽頭の状態を丁寧に観察し、

慢性上咽頭炎の診断を行っています。

慢性上咽頭炎が疑われる方には、

EAT療法による治療をご提案することも可能です。

患者様一人ひとりの状態に合わせて、優しく丁寧な処置を心がけています。

また、ご自宅でできる生理食塩水での鼻うがいなどのセルフケアについても、

具体的な方法をお伝えしています。

耳鼻咽喉科では、全身状態のケアが不十分なため、

現在受診されているクリニックを続けながら、

当院にてEAT療法を行うことを勧めております

最後に

「どうしてこんなに辛いんだろう…」と一人で悩まず、

もしかしたら身体の別の場所からのサインかもしれない、

という可能性についても考えてみませんか?

慢性上咽頭炎は、耳鼻咽喉科で見つけることができる病態です。

「こんな症状、耳鼻咽喉科で相談してもいいのかな?」と思われるようなことでも、

どうぞお気軽にご相談ください。

皆様がめまいや慢性疲労、頭痛といった辛い症状から解放され、

毎日を元気に過ごせるよう、全力でお手伝いさせていただきます。

慢性上咽頭炎について