- 風邪とは何か?
- 受診するなら何科がよい?
- 風邪を引き起こす主な原因
- 風邪の主な症状
- 風邪の治療
- 合併症の可能性と注意点
- 風邪の予防策
- よくある質問(Q&A)
- まとめ

風邪とは何か?
「風邪(かぜ)」は、誰もが経験したことのある、ごくありふれた急性の上気道感染症の総称です。鼻や喉などの上気道にウイルスや細菌などの病原体が感染し、くしゃみ・鼻水・咳・喉の痛み・発熱などのさまざまな症状を引き起こします。日常生活の中で「風邪をひいた」と言うとき、原因は多くの場合ウイルスです。原因ウイルスは200種類以上存在し、その種類や個人の体質・免疫状態によって症状の出方は大きく異なります。
医師が診察で「風邪ですね」と伝える場合もあれば、患者さんご自身が「風邪かも」と自覚して受診される場合もあるでしょう。しかし、風邪とは実際には「風邪症候群」とも呼ばれ、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・発熱・咳・痰・のどの痛みなどの諸症状を含む広範な状態を指します。一言で「風邪」と言っても、ウイルスによるものだけでなく、細菌やマイコプラズマ、クラミジアなどが関係する場合もあります。
ただし、80〜90%程度はウイルスが原因とされ、特に多いのはライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスなどです。季節によって流行しやすいウイルスが変化し、夏に多いもの、冬に多いものなど特徴が異なります。こうした背景から「風邪を治す特効薬」はいまだ存在せず、症状に合わせた対症療法を取るのが一般的となっています。
受診するなら何科がよい?
内科を受診する場合
「風邪症状があるからまず内科で相談」という方は多いです。一般的に、内科は内臓や全身管理の専門科であり、風邪を含む多くの疾患に幅広く対応してくれます。特に、咳がひどい時や胸の痛みや呼吸困難感があるときなどは内科受診が安心です。胸部のレントゲン検査で肺炎の有無を確認するなど、総合的に診断してもらいやすいです。
耳鼻咽喉科を受診する場合
一方、風邪の主要症状が「鼻水・鼻づまり・のどの痛み・声のかすれ・咳」など、いわゆる上気道に集中している場合は耳鼻咽喉科が非常に頼りになります。専門的な機器(ファイバースコープや耳の検査機器など)を使って、鼻や喉の粘膜の状態を直接確認できるため、より正確に診断・治療が行えるのが利点です。特に、
- 長引く鼻水や鼻づまり
- 耳の痛みや詰まった感じ
- のどの強い痛み、声がれ などがある場合は、耳鼻咽喉科の受診が適切なことが多いです。
小児のケース
お子さまの場合、鼻を上手にかめないために鼻水が長引いたり、中耳炎を併発しやすかったりします。耳鼻咽喉科では専用機器を用いた鼻水の吸引や、必要に応じてネブライザー治療を行えるため、小児の鼻風邪や中耳炎のケアにも向いています。
一方で、熱が高い・全身症状が激しい・吐き気や下痢など消化器症状が強いといった場合は、まずは小児科や内科で全身状態を評価する必要があるかもしれません。いずれにしても、迷った場合はまず行きやすい診療科に相談し、必要があれば別の科を紹介してもらうと安心です。
風邪を引き起こす主な原因
ウイルス感染
風邪の主な原因はウイルスです。ライノウイルスやコロナウイルス、インフルエンザウイルスなどが有名ですが、その数は非常に多く、すべてを特定するのは困難です。これらのウイルスは、飛沫感染(咳やくしゃみの飛沫を吸い込む)や接触感染(ウイルスが付着した手や物に触れ、そのまま口・鼻・目などを触る)によって体内に侵入します。
細菌感染
ウイルスによる風邪症状が長引くと、二次的に細菌感染が起こることがあります。溶連菌(ようれんきん)やマイコプラズマ、クラミジアなどが代表的です。もともとのウイルス性の症状が続くなかで、細菌に感染して合併症(副鼻腔炎や中耳炎、肺炎など)につながる場合もあります。
免疫力の低下
風邪を引き起こす大きな要因の一つに「免疫力の低下」が挙げられます。疲労や睡眠不足、ストレスなどで免疫力が低下していると、体内に侵入したウイルスや細菌に打ち勝ちにくくなります。冬場など気温が低く空気が乾燥しやすい季節は特に要注意です。
季節性・流行性
風邪は季節や流行状況によって特徴的なパターンを示します。例えば、秋から冬にかけてインフルエンザウイルスが流行しやすく、夏場にはエンテロウイルスなど消化器症状を伴う風邪が増えることがあります。感染しやすい時期には、よりこまめな感染対策が必要です。
風邪の主な症状
風邪症状は上気道(鼻や喉)を中心とした“局所症状”と、発熱や倦怠感などの“全身症状”に分けられます。以下は代表的な症状です。
鼻水・鼻づまり
鼻粘膜にウイルスや細菌が感染すると炎症が起き、体が異物を排除しようとして鼻水が出ます。初期はサラサラした鼻水が多く、後期になると黄色味や緑色に変化する場合があります。色が変わり、なおかつ鼻づまりがひどい場合は副鼻腔炎(ちくのう症)の可能性があるので要注意です。
喉の痛み・声がれ
喉(咽頭や喉頭)の粘膜が炎症を起こすと、痛みやイガイガ感、乾いた感じが生じます。炎症が声帯に広がると声がれが起こり、声が出しにくい・声がかすれるなどの症状が出やすくなります。発声を酷使する職業(教師、コールセンターのスタッフ、歌手など)の方は、早めのケアが大切です。
咳・痰
気道に炎症が及ぶと、咳が出ることがあります。風邪の咳には乾いた咳(空咳)と痰を伴う咳があります。長引く咳や、痰が黄色や緑色に変化した場合には細菌感染を疑い、受診が必要になるかもしれません。また、喘息を持っている方はウイルス感染が喘息発作を誘発することがあるため、注意が必要です。
発熱
ウイルスや細菌と戦う免疫反応が活発になると発熱が起こります。一般的には37~38℃台の微熱で済むことが多いですが、インフルエンザなどの特定のウイルス感染では39~40℃近い高熱が出ることもあります。高熱が続くと脱水を引き起こすリスクが高まりますので、水分補給や適度な休養を心がけましょう。
筋肉痛・関節痛
全身の免疫反応が強くなると、体のあちこちに痛みが出ることがあります。筋肉痛や関節の痛みを感じ、体がだるいと感じることも珍しくありません。日常生活や仕事に支障が出るほどの痛みがある場合は早めの受診をおすすめします。
消化器症状(腹痛・下痢など)
風邪と聞くと呼吸器症状が主なイメージですが、一部のウイルスは消化器系に影響を及ぼすことがあります。具体的には腹痛、下痢、吐き気などが挙げられます。こうしたお腹の症状が強い場合は、耳鼻咽喉科よりも内科の受診が優先される場合もあります。
風邪の治療
自然治癒が基本
多くの風邪はウイルスが原因であり、特効薬は存在しません。通常、数日から1~2週間ほどで自然に治癒するケースが大半です。そのため、風邪の治療の基本は安静・休養・十分な水分と栄養摂取です。熱がある場合でも、体力があって食欲も確保できるなら、無理に解熱剤を使わずに経過を見ることもあります。
対症療法
風邪を完全に「治す」薬はありませんが、症状を和らげるための薬は多数存在します。具体的には、
- 解熱鎮痛薬:頭痛や発熱を和らげる
- 咳止め薬・去痰薬:咳や痰を抑える、出しやすくする
- 鼻炎用薬(点鼻薬・内服):鼻水や鼻づまりを軽減する
- 漢方薬:葛根湯や小柴胡湯など、個人の症状に合わせて処方
こうした薬の組み合わせで症状をコントロールし、体力の回復を助けます。なお、市販の「総合感冒薬」は、これら複数の成分が少量ずつ配合されている場合が多いです。
抗生物質の使用
風邪の8〜9割はウイルス性なので、基本的に抗生物質(抗菌薬)は効果がありません。しかし、二次感染などで細菌性の合併症を疑う場合には抗生物質が処方されることがあります。例えば、副鼻腔炎や中耳炎、扁桃炎が起きている場合は細菌感染の可能性が高まりますので、医師が必要と判断すれば抗生物質を使うことがあります。
治療期間の目安
一般的な風邪は、1週間~10日程度で多くの症状がおさまるケースが多いです。しかし、咳だけが長引く、のどの痛みやだるさが続くなど個人差があります。2週間以上たっても改善がみられない場合は別の病気が隠れている可能性もあるため、早めに受診しましょう。

合併症の可能性と注意点
「たかが風邪」と思って放置していると、まれに合併症が進行してしまうケースがあります。特に注意すべき合併症としては以下が挙げられます。
副鼻腔炎(ちくのう症)
鼻の奥にある複数の空洞(副鼻腔)が、ウイルスや細菌に感染すると炎症を起こし、粘膜が腫れ上がって膿がたまる状態です。黄色~緑色の粘性の高い鼻水が出る、頭痛や顔面の痛み・重さ、鼻づまりが長期間続くなどの症状が特徴です。耳鼻咽喉科では、レントゲンやCT検査、内視鏡検査による詳しい診断と、必要に応じた抗生物質処方や処置が行われます。
中耳炎
鼻や喉の風邪症状が長引くと、鼻の奥と中耳を繋ぐ耳管を通じて病原体が耳に達し、中耳炎を引き起こすことがあります。子供は耳管が短く、角度も水平に近いため、より感染しやすいです。耳の痛みや聞こえづらさ、発熱などがあれば要注意。放置すると難聴や慢性中耳炎を招く恐れもあり、早期受診が重要です。
扁桃炎・扁桃周囲膿瘍
喉の奥にある扁桃(口蓋扁桃)が細菌感染を起こすと、激しい喉の痛みと高熱に襲われます。さらに重症化すると、扁桃周囲に膿がたまる扁桃周囲膿瘍へと進展し、強い痛みで唾液を飲み込むことも困難になるケースがあります。この段階になると入院治療や切開排膿が必要になることもあるため、喉の痛みが強い場合には早めの受診が望ましいです。扁桃炎の治療は耳鼻咽喉科がオススメです
肺炎
一般的な風邪がこじれて肺炎を起こすこともあります。特に高齢者や免疫力の低い方、基礎疾患を持っている方はリスクが高いです。肺炎になると発熱や咳、息苦しさなどの呼吸器症状が悪化し、入院が必要になる場合もあります。肺炎の診断には胸部レントゲン検査が必要ですので、内科で検査を受けることをおすすめします。
風邪の予防策
手洗い
ウイルスや細菌は手指を通じて体内に入りやすいため、こまめな手洗いは最も基本的かつ有効な予防策です。外出先から帰宅した時、食事の前、トイレの後など、石鹸を使った手洗いを習慣化しましょう。
うがい
うがいには、喉や口腔内に侵入した病原微生物を洗い流す効果が期待されます。特に水うがいは、研究で風邪の罹患率を減らす可能性があるとされています。ポビドンヨード入りのうがい薬は殺菌効果がありますが、口腔内の常在菌を過度に減らす可能性も指摘されているため、風邪をひいていない状態での過度な使用は注意が必要です。
マスク着用
飛沫感染や接触感染を予防するため、また咳エチケットの観点からも、マスクは風邪の予防・拡散防止に一定の効果があります。特に人混みの多い場所へ行くときや、咳が出ている時は着用を推奨します。また、就寝時にマスクをつけると保湿効果が得られ、喉の乾燥を防げるとの報告もあります。
適切な湿度管理
乾燥した環境はウイルスが繁殖しやすく、気道粘膜の防御機能を弱めます。室内の湿度を**50~60%**程度に保つように加湿器を使用するなどの工夫をすると、風邪予防に役立ちます。
栄養と休養
免疫力を高めるためには十分な栄養と休息が欠かせません。タンパク質やビタミンをバランスよく摂取し、適度な運動や十分な睡眠を心がけると、風邪をひきにくい体づくりにつながります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 風邪はどのようにしてうつるの?
A. 主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。風邪をひいた人がくしゃみや咳をした際の飛沫を吸い込む、またはウイルスが付いた手や物に触れた後に自分の鼻や口を触れることでうつります。
Q2. 風邪とインフルエンザの違いは?
A. 症状は似ていますが、インフルエンザはインフルエンザウイルスが原因で、急な高熱や関節痛・筋肉痛、強い倦怠感などが特徴的です。症状が重く、合併症を起こしやすいという点で一般的な風邪より注意が必要です。
Q3. 抗生物質を飲めば早く治る?
A. 風邪の大半はウイルス性なので、抗生物質で直接治すことはできません。抗生物質は細菌には効果を発揮しますが、ウイルスには無効です。細菌感染が疑われる場合のみ使用します。
Q4. 「風邪をひいたらすぐ病院へ行くべき」なの?
A. 軽い症状であれば、まずは自宅で安静にして経過を見るのも一つの選択肢です。熱が高い、痛みが強い、呼吸が苦しい、長引いているなど気になる症状がある場合は早めに受診しましょう。特に小さなお子さまや高齢者、基礎疾患がある方は重症化しやすいので注意が必要です。
Q5. 風邪の予防接種はある?
A. 一般的な「風邪(感冒)」に対する予防接種はありません。ただし、インフルエンザや特定のウイルス性疾患に対しては予防接種が存在するケースもあります。インフルエンザワクチンを接種することで重症化を防ぐ効果が期待できます。
Q6. 風邪が原因で声が出なくなりました。どうすればいい?
A. 声帯が炎症を起こしている可能性があります。声を出すことは酷使につながり、症状を長引かせる要因となります。できるだけ声を出さずに休め、十分な水分補給や加湿を意識しましょう。症状が改善しない場合は耳鼻咽喉科を受診してみてください。
Q7. 子どもの鼻水が止まりません。自宅で対処できる?
A. 自宅でも鼻水吸引器などを使ってある程度はケアできますが、奥の方にたまった鼻水は取りきれないことも多いです。耳鼻咽喉科では、専用の機器でしっかり吸引できますし、必要に応じて薬の処方も受けられます。中耳炎のリスクを下げるためにも、長引くようなら受診を検討しましょう。
まとめ
風邪は日常的でありふれた病気ですが、原因のほとんどがウイルス感染であるため、「特効薬」と呼べるものはありません。基本的には安静にして体力を温存しながら、症状に応じた薬で対症療法を行うことが大切です。ただし、症状が重い・長引く・高熱が続くなどの場合は、合併症や別の病気の可能性がありますので、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。
受診する診療科は症状によって選ぶのが望ましいです。鼻やのどの症状を中心にケアしたいときは耳鼻咽喉科、発熱や全身倦怠感などが激しいときは内科が適している場合が多いです。また、お子さまの場合は小児科でも総合的に対応してもらえます。
風邪の予防には、手洗い・うがい・マスクなどの基本的な対策に加え、十分な休養とバランスのとれた食事、適度な運動による免疫力向上が重要です。特に新型コロナウイルスの流行以降は、衛生管理が徹底されたことで「風邪をひく回数が減った」と感じる人も少なくありません。こうした対策は風邪だけでなく、インフルエンザやその他の感染症対策にも有効です。
万が一、風邪をひいてしまったら、まずは体を休めることが一番の近道です。栄養と睡眠をしっかり取りつつ、症状が軽快するかどうかを観察してください。もし「いつもより症状が重い」「長引いている」「痛みが強い」「呼吸が苦しい」など異常を感じたら、早めに医療機関を受診することをおすすめします。