急性扁桃炎(きゅうせいへんとうえん)は、細菌やウイルスに感染し、炎症を起こした扁桃が赤く腫れて痛み、高熱が出る病気です。
「扁桃」とは、舌の付け根の両側にあるアーモンド形のリンパ組織のことで、ひどい場合には強い痛みで食事が摂れなくなり、嘔吐を伴うこともあります。
扁桃炎を起こす細菌やウイルスはたくさんありますが、その中でも「溶連菌(ようれんきん)」という細菌によるものは症状が重く、幼稚園や小学校などの小さなお子さんに多いのが特徴です。
そのため、家庭や学校などの集団生活の場で感染が広がりやすく、適切な治療を行わないと合併症を起こす可能性もあるので、なるべく早く治療を開始することが大切です。
急性扁桃炎の症状とは?
急性扁桃炎を発症すると、以下のような症状が現れます。
- 38~40℃の高熱
- 喉の腫れと痛み
- 首のリンパ節の腫れ
- 耳の痛み
- 頭痛、関節痛
- 倦怠感
- 扁桃に白い斑点のような膿が付着する
- 苺舌(下に真っ赤なブツブツが出る)
- 赤い発疹
突然の高熱、激しい喉の痛み、倦怠感から発症することが多く、首のリンパ節の腫れや頭痛、関節痛などの全身症状を伴います。
さらに、溶連菌感染の場合、2~5日の潜伏期間の後、発熱や喉の痛みに続いて舌にイチゴのような赤いブツブツができる場合や、体に痒みのある赤い小さな発疹が出る場合もあります。
急性扁桃炎の原因は?
急性扁桃炎は、病原体(細菌やウイルス)が扁桃に感染することで発症します。
溶連菌以外にも、ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌などの細菌、または、ウイルスが原因で発症する場合もあります。
私たちの身体には、もともと「免疫システム」が備わっていて、健康な時は、病原体が入ってきても撃退することができるようになっています。
しかし、風邪やストレス、過労などで体力が落ちてしまっている時は、感染力が免疫力を上回ってしまい、侵入した病原体が増殖して炎症が起こります。
ちなみに溶連菌は、正式には「A群β溶血性レンサ球菌」と呼ばれる細菌です。
この菌は、体のどこに侵入するかによって現れる症状が異なるのが特徴で、扁桃炎以外にも、伝染性膿痂疹(通称とびひ)や中耳炎、肺炎、髄膜炎などを発症する場合もあります。
その感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫を介しての発症が多いですが、ドアノブや手すりなど菌の付いた物を触った手から感染するケースや、菌が付いた食品から感染するケースもあります。
急性扁桃炎の検査と診断法
急性扁桃炎の場合、高熱や扁桃の腫れなどの特徴的な症状から診断することができるのですが、見ただけでは、ウイルスによるものか、細菌によるものかの原因までは分からないため、以下のような検査を行います。
溶連菌迅速検査
患者さんの年齢や症状から溶連菌感染が疑われる場合に行う検査。
専用の検査キットがあり、綿棒で喉をこするだけで簡単に調べることができ、5分程度で検査結果が判明する。
細菌検査
綿棒で扁桃をぬぐった液を培養して細菌の種類を調べる検査。
おもに症状が長引いている時などに、細菌の種類を特定し、効果のある抗生物質を調べる目的で行うことが多い。
急性扁桃炎の治療
急性扁桃炎の治療には薬物療法を行いますが、ウイルス性か細菌性かによって治療の内容は異なります。
≪ウイルス性の急性扁桃炎の場合≫
・喉の消毒
・消炎鎮痛剤の服用
抗生物質は、ウイルスには効果がないため使用せず、熱やつらい痛みを抑えるための対症療法を行います。
熱が高い時や、強い痛みで薬を飲み込めない時は、坐薬を処方する場合もあります。
≪細菌性の急性扁桃炎の場合≫
・喉の消毒
・消炎鎮痛剤の服用
・抗生物質の服用(症状が重い時は点滴の場合もあり)
熱や痛みを和らげるための対症療法と並行し、細菌を殺すための抗生物質による治療を行います。
溶連菌感染の場合、抗生物質を飲むと2~3日でつらい症状は和らぎますが、症状がなくなっても、処方された抗生物質は、しっかり最後まで飲みきることが大切です。
なぜならこの時点では、溶連菌は体内でまだ生きており、途中で薬を止めてしまうと、2~3週間経った頃に、「リウマチ熱」や「腎炎」などの合併症(続発症と言います)を引き起こす可能性があるためです。
よくあるご質問
1)溶連菌による急性扁桃炎は大人にも感染しますか?
溶連菌は小さなお子さんから大人までどの年代でもかかります。
しかし、3歳以下の小さなお子さんや大人の場合は扁桃が腫れるなどの症状のみで、高熱が出るケースは少ないです。
2)溶連菌の感染を予防する方法はありますか?
残念ながら、溶連菌を予防するワクチンはありません。
風邪など他の感染症と同様、うがいや手洗いなどで感染を予防することが大切です。
また、すでに、ご家族に溶連菌感染の患者さんがいる場合、兄弟などに感染してしまうケースが多いので、感染力が特に強い急性期は一緒に遊ばせるのを控え、おもちゃやタオルの共用なども避けましょう。
3)溶連菌による急性扁桃炎の流行時期はいつですか?
冬または春~初夏にかけて流行するケースが多いですが、年間を通して発症する可能性があります。
迅速検査キットの普及などもあり、近年、全体の患者報告数は増加傾向です。
4)一年に何度も急性扁桃炎になってしまいます……。
患者さんによっては、年に何度か急性扁桃炎を繰り返す場合があり、これを「習慣性扁桃炎」または「反復性扁桃炎」と言います。
一年に4~5回、扁桃炎で高熱を出すなど、日常生活への影響が多い時は扁桃を取り除く手術をする場合もあります。
もともと扁桃には、ウイルスや細菌などの病原体から体を守る役割があることから、お子さんの手術については十分検討する必要があります。
しかし、成長とともに身体全体の免疫機能が発達すると、扁桃腺の役割はほぼなくなるため、切除しても大きな問題はありません。
5)溶連菌による扁桃炎を発症しましたが、再登校(登園)の目安はいつですか?
抗生物質による治療を適切に行うと、24時間程度で溶連菌の感染力はなくなります。
その後、熱が下がれば再登校(登園)は可能になりますが、医師の指示に従い、処方された抗生物質は、最後まで飲み切ることが重要です。
まとめ
幼稚園や小学校に通うお子さんは、大人に比べると免疫力が弱く、多くの子供が集団生活を送る学校などで感染するケースが多いので注意が必要です。
発熱や喉の痛みなど、風邪と症状が似ている点も多いですが、首の辺りが腫れ、喉の痛みが強い場合には急性扁桃炎の可能性があるため、自己判断せずに、早めに医師の診断を受けるようにしましょう。
また、発症時は、早期に治療を開始し、水分をたくさん摂って安静を保つとともに、周囲への感染を広げないための対策も忘れずに行うようにしましょう。