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味覚障害

味覚障害

おいしい食べ物を食べて、「おいしい」と感じられることは、健康のバロメーターの一つですよね。

しかし、「食べ物の味が分からない」「口の中に何もなくても味がする」「何を食べてもまずく感じる」場合、味覚に異常が起こる「味覚障害」かもしれません。

味覚障害は、「亜鉛不足」「加齢」「降圧剤や糖尿病の薬などによる副作用」「がんの治療」「ストレス」「ドライマウス・舌炎などの疾患」「鼻づまりやアレルギー性鼻炎による一時的な風味障害」などが原因となり、味を感じる仕組みがうまく働かなくなることで起こります。

意外に迷うのが、どこの診療科に受診しようか迷うことです。味覚障害は耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。一番の理由は、嗅覚性味覚障害(匂いが分からなくて味が分からない)ということが意外に多いからです。嗅覚障害を確認できるのは耳鼻咽喉科だけです。他の診療科で診てもらってももちろん大丈夫ですが、分からなければ耳鼻咽喉科を受診する必要がでてきてしまします。そうすると、二度手間になって大変ですよね。

味覚障害患者さんの男女比は、2:3と女性の方が多い傾向です。

「味覚障害」は、塩分や糖分の摂りすぎ、低栄養の原因となり、二次的な健康被害につながる恐れもあるので、気付いたら早めの対処が必要な病気です。

「味覚障害かな?」と思う方、食欲不振が続いている方は、お気軽に当院までご相談下さい。

味覚障害の症状について

味覚障害といっても、様々な症状があります。

・味を感じにくい(味覚減退)
・味が分からない(味覚消失)
・何も食べていないのに、苦みや塩味を感じる(自発性異常味覚)
・甘味や旨味など、特定の味が分からない(解離性味覚障害)
・甘いものなのに苦く感じるなど、違う味に感じる(異味症)
・何を食べても、まずいと感じる(悪味症)

女性の場合、自分では味覚障害に気が付かなくても、人に料理を作った際に「前とは味つけが変わった」と指摘されて気付くケースもよく見られます。

味覚のしくみ

人間は、舌の表面にあるブツブツとした赤い点の味蕾(みらい)という部分で、「塩味」「酸味」「甘味」「苦味」「うま味」の5つの基本味を感じています。
さらに、味蕾の中にある味細胞(みさいぼう)から味覚神経を介して、脳に「味」が伝わります。

「味覚」とは、おいしさを感じる感覚であると同時に、腐っているものなど人間に有害なものを避けるための重要な役割も担っています。

(画像引用)味を感じる舌乳頭|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
http://www.jibika.or.jp/citizens/daihyouteki/koukuu.html

有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)、葉状乳頭(ようじょうにゅうとう)、茸状乳頭(じじょうにゅうとう)のふくらみの表面に味蕾があります。

味覚障害の原因

味覚障害は、味蕾で味を感知してから脳へ伝わるまでの経路に、何らかの障害が発生することで起こります。

その障害の原因は様々です。

①亜鉛不足

味蕾の中にある味細胞は、「亜鉛」の力を借りて、約1ヶ月に1回生まれ変わるほど新陳代謝が活発な細胞です。亜鉛が不足すると、味細胞の再生に影響が出るため、味を感知できなくなります。
なお、亜鉛は体内で合成できない栄養素のため、牡蠣やナッツ類(特にカシューナッツ)などの食物から摂取する必要があります。

(図)牡蠣・ナッツ類

②加齢

味覚機能は50歳頃から低下し始めます。
乳児の頃は約10,000個あった味蕾も、成人になると約半分の5,000個になり、高齢者では、乳児に比べて半数から1/3程度まで減少します。
味覚障害の患者さんの半数以上は、65歳以上の高齢者の方となっています。

③薬の副作用

薬の副作用による味覚障害は、高齢者の味覚障害の中で最も多い原因で、特に長期間、複数の薬剤を服用している高齢者に多く見られます。
味覚障害の原因となる薬剤は約200種類あり、降圧剤や糖尿病薬、抗がん剤、抗てんかん薬、気管支拡張薬、抗うつ薬、鎮痛解熱薬、抗アレルギー薬など様々です。
こういった薬剤は腸で亜鉛の吸収を阻害してしまう、亜鉛を欠乏させてしまいます。

④味覚障害を伴う疾患

口内乾燥症(ドライマウス)や舌炎、シェーグレン症候群(唾液分泌が低下する病気)などの口腔疾患や糖尿病・がんなどの合併症として、「味覚障害」を伴う場合があります。
また、腎臓・肝臓疾患の場合も亜鉛代謝に関係することから、味覚障害を伴うことがあります。風邪やアレルギー性鼻炎などでも、においや味が一時的に分からなくなる「風味障害」が起こることがあります。

⑤ストレス

ストレスやうつ病でも、味覚障害を引き起こすことがあります。

⑥鉄分不足

体内の鉄不足から「味覚障害」が起こることが知られています。特に20代~40代の女性の方は、月経に伴い、鉄欠乏になりやすい状態です。できる限り、鉄分の多い食事を心がけることで、予防が可能です。

⑦嗅覚障害

風邪を引いて、鼻水が大量に出ているときに味が鈍くなった感じになる方は少なくありません。匂いが分からなくなることが、味覚障害の原因となることがあります。和食は、出汁など風味を生かした味付けをすることが特徴ですので、匂いが分からなくなると、味が分かりづらいということが出てきます。

味覚障害の検査について


「味覚障害」は、問診、視診、血液検査や尿検査、味覚検査によって、総合的に診断します。

①問診と視診

問診では、自覚症状と発症期間、味覚障害を起こす可能性のある病気の有無、投薬の有無などを伺い、口の中の状態を確認します。

②血液検査

亜鉛・銅・鉄が不足していないか、体内のバランスが適正かどうか、腎臓や肝臓の機能などを調べます。

③電気味覚検査

舌に電極を当て、微弱な電気刺激を与えて、どのくらいの電流で味覚を感じるかを調べます。保険適用で検査可能です。
※当院ではこの検査を行っていないため、検査が必要な方は総合病院へご紹介します。この検査が必要となるのは交通事故からくる嗅覚障害に対してが多いです。

④ろ紙ディスク法

甘味・塩味・酸味・苦味を染み込ませたろ紙(濃さは5段階)を舌の上に置いて、どの段階で味が正しく感じるかを調べる検査です。保険適用で検査可能です。
※当院では検査を行っていないため、検査が必要な方は総合病院へご紹介します。この検査が必要となるのは交通事故からくる嗅覚障害に対してが多いです。

⑤嗅覚検査

鼻腔内にポリープや腫瘍がないかを確認します。鼻から内視鏡を入れることが、細かい病変まで見つけることが可能です。

ほかにも、唾液分泌検査(ガムテスト)や嗅覚検査、心理学的検査、CT検査やMRI検査、尿検査など必要に応じて行います。

味覚障害の治療について

亜鉛補充法

味覚障害治療の基本は、不足している「亜鉛」を摂ることです。
亜鉛製剤やサプリメントの摂取を1ヵ月ほど続けてみましょう。
自覚症状の改善率は70~90%と高めです。

亜鉛の補充をしすぎると、銅が欠乏してしまい、銅欠乏症となることがあります。その場合、疲労・貧血・白血球減少などがあり、重症となると神経の損傷を起こした例もあります。亜鉛の補充を行う方は、当院では定期的な採血をしています。

薬物療法

鉄分の不足が認められる場合には「鉄剤」、ストレスなど心因性が原因と考えられる場合には「抗うつ剤・抗不安剤」、慢性疲労や冷えなどを改善して体調を整える目的で「漢方薬」が処方される場合があります。

薬の変更や中止
薬の副作用で味覚障害が起こっていることが明らかな場合には、医師と相談して、薬を減らしたり、変更したり、場合によっては中止するなど見直しを行います。
しかし、実際のところは判断が難しい場合も多く、そういったケースにも「亜鉛補充療法」を行うと、改善されることもよくあります。

栄養療法

亜鉛を多く含む食品を日頃から摂るようにしましょう。
亜鉛含有量の多い食品に、牡蠣、豚レバー、牛もも肉、うなぎのかば焼き、煮干、カシューナッツ、いりアーモンド、いりゴマなどがあります。
亜鉛の吸収を促すために、酢やレモンなどのクエン酸や乳製品、発酵食品も一緒に摂ると、なお良いでしょう。

よくあるご質問

1)年々こってりとした濃い味が嫌いになってきたのですが、味覚障害ですか?

年を取って、こってり濃い味が苦手になっても、あっさり薄味でおいしく感じるのであれば味覚障害ではありません。

人は加齢に伴って唾液分泌がしづらくなり、唾液の酵素活性も減ってきて、次第に消化能力も衰えてくるので、胃に負担が少ない食べ物を好むようになります。
また、加齢でエネルギー代謝も衰えて、汗をかきにくくなるので、塩分の必要量が減少することも味の好みの変化に影響しているとされています。

2)子どもでも「味覚障害」になりますか?

近年、“味が分からない”子どもが増えています。
しかし、大人のように「亜鉛欠乏」「薬の副作用」などが味覚障害の原因となっている訳ではありません。
子どもの場合は、主に加工食品や濃い味の食べ物(スナック菓子、菓子パン、清涼飲料など)を頻繁に摂取していることによって、味覚障害というよりも“味覚を鈍くしている”のです。

幼少期からの濃い味付けは、塩分・糖分の摂りすぎにつながり、将来的な高血圧や生活習慣病、脳梗塞・心筋梗塞などの原因にもなりかねません。

子どもの味覚障害が疑われる場合は、まずは食生活を見直すところから始めてみましょう。
子どものうちから肉・魚・野菜・穀物は、素材の旨味を生かした薄味にして、バランスよく食べることが大切です。

3)急に味がしなくなりましたが、新型コロナウイルスの心配はありませんか?

新型コロナウイルスに感染すると、味がしなくなる(味覚障害・風味障害)との報道をご存じの方も多いことでしょう。
これは、鼻の奥にある「においを感じる細胞(嗅細胞)」がウイルス感染でダメージを受けることによるものです。においを感じにくくなると、味も分からなくなります。

しかし、この「急に味・においがしなくなる」「前より鈍くなる」ことは、風邪や花粉症など別のウイルス感染でも起こることです。
新型コロナウイルスだけが原因となるわけではないので、必要以上に心配されることはありません。
また、ウイルス感染による嗅覚・味覚障害の治療は急ぐ必要ありません。特に特効薬はなく自然に治ることも多いので、2週間程度様子を見るようお願いします。
2週間経っても、発熱など他の症状がなく味覚症状が改善しない場合は、耳鼻咽喉科を受診するようお願いします。

さらに、様子見の間はできるだけ不要不急の外出を避ける、毎日検温を行う、人と会話するときはマスクを着用する、こまめに手洗いをするなど、念のため新型コロナウイルスに感染していた場合を考えた行動を取りましょう。一人一人が感染拡大防止に努めた行動をお願いします。

ただし、味覚症状のほかに37.5度以上の発熱が4日以上続く、咳、息苦しさ、強いだるさがある場合には、お住まいの区市町村の帰国者・接触者相談センターにご相談ください。厚生労働省のHPからも確認することができます。

●各都道府県における帰国者・接触者相談センター紹介(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html

(参考)耳鼻咽喉科学会からのお知らせとお願い|日本耳鼻咽喉科学会
http://www.jibika.or.jp/citizens/covid19/mikaku.html

まとめ

「味覚障害」は命を落とす病気ではありませんが、食べる楽しみが奪われることでQOL(生活の質)を著しく低下させる病気です。

日本口腔・咽頭科学会の調査によれば、味覚障害の患者さんは推定24万人(2003年)とされており、超高齢化社会に伴って、今後もますます味覚障害の患者さんが増えていくことが予想されています。
日頃から、亜鉛を多く含む牛肉やレバー、チーズなど乳製品、牡蠣・イワシなどの魚介類、シイタケ、海藻類を積極的に摂って予防に努めましょう。

味覚障害は、自覚症状が現れてから6か月以内に亜鉛補充を行った場合は約70%以上が改善する一方で、1年以上経過してから治療を行った場合には約50%まで低下するとされています。

「味覚障害」の自覚症状がある方、自覚症状がなくても食欲不振が続くような方は、早めに当院までご相談ください。

記事執筆者

記事執筆者

馬込駅前あくつ小児科耳鼻咽喉科
院長 岩澤 敬

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器相談医
日本めまい平衡学会 めまい相談医

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西馬込あくつ耳鼻咽喉科
院長 阿久津 征利

日本耳鼻咽喉科学会 専門医
日本めまい平衡医学会 めまい相談医
臨床分子栄養医学研究会 認定医

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