のどの症状

飲み込みづらい

飲み込みづらい

食べた物がうまく飲み込めないという状態を、「嚥下障害(えんげしょうがい)」もしくは「嚥下困難(えんげこんなん)」といいます。

通常、食べ物は、飲み込みやすいように口の中でかみ砕かれた後、のどから食道を通って胃に送られるしくみになっていますが、食物の通り道となる口の中やのど、食道のいずれかに何かしらの異常があると、うまく飲み込むことが難しくなります。

嚥下障害を引き起こす病気はたくさんあり、一時的な炎症であれば、治療により数日程度で回復しますが、病気によっては至急、処置が必要になる場合もあります。さらに、症状が長引く場合には、がんのような深刻な病気も疑われるため、気になる症状がある時は、早めに受診して検査を受けることが大切です。

(参考)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会 口腔期


症状から考えられる原因とおもな病気

嚥下障害を伴う病気には以下のようなものがあります。

咽頭炎(いんとうえん)

風邪のウイルスなどに感染し、のどの咽頭(いんとう)という部分に炎症が起きた状態です。
のどが赤く腫れて痛くなるため、ものを飲み込む時に痛み(嚥下痛:えんげつう)があり、発熱や倦怠感を伴う場合もあります。

扁桃炎(へんとうえん)

のどの奥に見える口蓋垂(こうがいすい:のどちんこ)の左右両側にある扁桃(へんとう)に炎症が起きた状態です。溶結性連鎖球菌などの細菌やウイルス感染で発症することが多く、扁桃が赤く腫れて痛みが出るため、つばを飲み込むのもつらくなります。高熱を伴い、扁桃の表面に白っぽい膿が付着することもあります。

扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)

扁桃炎が悪化し、扁桃の周りに膿が溜まってしまう状態です。腫れが扁桃の周囲にまで広がるため、飲み込むときに強い痛みがあり、食事が摂れなくなるほか、口が開けづらくなり、耳に痛みが出る場合もあります。

急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)

のどの喉頭(こうとう)にある「喉頭蓋(こうとうがい)」に炎症が起きた状態です。喉頭蓋は、摂り込んだ食物が気管に入らないようにする「ふた」のような働きをしている器官で、発症すると、のどの痛みや呼吸の苦しさ、物が飲み込みにくいといった症状が現れ、発熱を伴います。急激に症状が進行すると、窒息の可能性もあります。

胃食道逆流症

胃酸や胃の内容物が食道に逆流する状態です。酸性度の強い胃酸に触れることで食道やのどの粘膜が炎症を起こし、胸やけや吞酸(どんさん:酸っぱいものがこみ上げる)、咳やのどの不快感が起こり、飲み込みにくさを伴います。

咽頭がん(中咽頭がん、下咽頭がん)

咽頭がんの中でも、扁桃や口蓋垂(こうがいすい:のどちんこ)の周辺や舌の付け根などにできるものを「中咽頭がん」といい、食道の入り口付近にできるものを「下咽頭がん」といいます。
喫煙や過度の飲酒が原因で発症することが多く、のどの痛みや声がれ、息苦しさ、飲み込みづらさといったのどの違和感が現れます。がんが進行し、首のリンパ節に転移すると首の一部にしこりができて腫れるようになります。

喉頭がん

喉頭(のどぼとけの辺り)にできるがんです。喫煙や過度の飲酒による発症が多いため、男性に多く見られるのが特徴です。喉頭内の声帯にがんができた場合、初期は声がれなどの症状が見られ、次第に呼吸の苦しさや、物が飲み込みにくいとった症状が現れます。

咽喉頭異常感症 (いんこうとういじょうかんしょう)

風邪やそのほかの病気がないにも関わらず、のどに何かが詰まったような違和感がある状態です。「のどの奥に球のようなものがある感じ」と訴える患者さんが多いことから「ヒステリー球」とも呼ばれます。つばが飲み込みにくくなりますが、食事は問題なく摂れるというケースも多いのが特徴です。更年期障害やうつなどの心因性の病気が原因で発症すると考えられています。

加齢による嚥下障害

高齢になるにつれ、飲み込む力が衰えることで、食事を摂りづらくなり、固いものが飲み込めない、お茶や汁物などの水分を摂るとむせるといった症状が現れます。食事の量が減ることで体重が減ってしまうほか、むせないようにと水分を避けると脱水に陥ることもあります。

耳鼻科で行う「飲み込みづらさ」を調べるおもな検査

耳鼻咽喉科では、飲み込みづらさの原因を調べるため、以下のような診察と検査を行います。

問診、視診

医師が症状や患者さんの生活の状態(食事がきちんととれているか、食事にかかる時間など)を詳しく聞き取ります。
問診と合わせて鼻やのどの状態、舌の動き、発声に問題が無いかなども詳しく確認します。
実際に、飲み込む(嚥下)状態を確認するため、「水飲みテスト(患者さんに水を飲んでもらい、その様子を観察する)」のような簡易テストを行う場合もあります。

嚥下内視鏡検査(えんげないしきょうけんさ)

先端に小さなカメラが付いた管(内視鏡)を入れ、咽頭や喉頭に飲み込みにくさの原因となるような異常がないかを調べます。
また、内視鏡を固定した状態で、患者さんに着色した水や食べ物を摂ってもらい、実際に嚥下の状態を観察することもあります。

※上記の検査以外にも、必要に応じて「嚥下造影検査(えんげぞうえいけんさ)」を行う場合もあります。嚥下造影検査は、レントゲンで物を飲み込んだ時の食物の通過する様子を観察する検査です。

飲み込みにくさを伴う病気のおもな治療法

飲み込みにくさの改善には、発症の原因となっている病気を特定し、それぞれに適した治療を行うことが大切です。原因である病気の治療をしっかりと行うことで、飲み込みにくさも改善させることが可能です。

薬物療法

病気の種類により、おもに以下のような薬物を処方します。

咽頭炎、扁桃炎→消炎剤(炎症による腫れや痛みを抑える)、ネブライザー治療(霧状にした薬を吸い込み、直接のどの炎症を和らげる)、抗菌薬(細菌が原因の場合)など
扁桃周囲膿瘍→消炎剤、抗菌剤(点滴、内服)など
急性喉頭蓋炎→消炎剤、抗菌薬、ステロイド剤など

(参考)ネブライザー治療の様子

(参考)ネブライザー治療の様子

胃食道逆流症→プロトンポンプ阻害薬(PPI:出過ぎた胃酸の分泌を抑える)、ネブライザー治療など
咽喉頭異常感症→半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、柴朴湯(さいぼくとう)などの漢方薬

外科手術

薬物療法だけでは効果が得られない場合には、以下のような外科的な治療を行います。

扁桃周囲膿瘍→扁桃の周りの腫れている部分を切開して膿を出すほか、何度も再発を繰り返すような場合は、扁桃自体を摘出する手術を検討する
急性喉頭蓋炎→腫れがひどく窒息の危険がある場合、緊急処置として声帯の下の方にある気管に直接穴を開け、呼吸ができるようにする(気管切開)
がん→抗がん剤や放射線治療と組み合わせ、がんの摘出を行う

その他(嚥下指導、訓練)

加齢による嚥下障害→食事の摂り方の指導(食べ物のサイズを小さくする、柔らかくする、とろみをつけるなど)や食事の時の姿勢のアドバイス、嚥下機能を維持する運動の指導などを行う

よくあるご質問

1)高齢になると嚥下障害になりやすいのはなぜですか?

物を食べる時、口の中に入った食物は、歯で細かく砕かれた後、筋肉や神経の働きでのどの奥に送り込まれるのですが、高齢になると、のど周辺の筋力が低下するため、飲み込む力が弱くなり、飲み込みづらいという症状が現れます。
また、筋力の低下で気道が上手く閉じられなくなると、「誤嚥(ごえん:食物が食道ではなく気管に入りむせる)」も起こりやすくなります。
高齢者の誤嚥は、窒息の危険があるほか、何度も繰り返すうちに肺炎を起こすこともあるため、筋力をつけるリハビリトレーニングや外科手術(リハビリでの回復が難しい場合)で嚥下の機能を回復
、維持させることが重要です。

2)食べる時に飲み込みづらさがありますが、原因が分かりません……。

風邪による炎症のように、比較的分かりやすい症状もありますが、なかには、なぜ症状が出るのか患者さんの心当たりが全くないという場合もあります。嚥下障害の原因はさまざまで、耳鼻科で診療を行う病気はもちろん、加齢や薬の副作用、脳や神経、筋肉、メンタルの病気など、幅広い原因で起こる場合があります。早期発見、早期治療につなげるためにも、一度、医療機関で検査を受けられることをおすすめします。

まとめ

普段、私たちは無意識に飲み込むという動作を行っていますが、実は筋肉や神経などの緻密な動きによって成り立っています。
食べることは、生活の大きな楽しみでもあるため、何かしらの異常で飲み込みづらい状態が続くと、生活の質(QOL)は、大きく低下してしまいます。
また、飲み込みづらさから、食事で栄養が十分に取れない状態が続くと、脱水や体力の低下にもつながりますので、放置せずに早めに医師の診察を受けましょう。

記事執筆者

記事執筆者

馬込駅前あくつ小児科耳鼻咽喉科
院長 岩澤 敬

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器相談医
日本めまい平衡学会 めまい相談医

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西馬込あくつ耳鼻咽喉科
院長 阿久津 征利

日本耳鼻咽喉科学会 専門医
日本めまい平衡医学会 めまい相談医
臨床分子栄養医学研究会 認定医

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