しわがれ声やがらがら声、弱々しい声といった声がれは「嗄声(させい)」と呼ばれ、のどの喉頭(こうとう)にある「声帯(せいたい)」という器官の異常が原因で起こります。
声を作り出す「元」である声帯は、喉頭の中心部に左右2本あります。通常、呼吸時には開き、物を飲み込む時や発声時はぴったり閉じるしくみになっていますが、何らかの理由で声帯にトラブルが起きると、この機能がスムーズに働かなくなり、声のかすれが生じます。
大声を出した後や風邪を引いた時の一時的な声がれは、なるべく声を使わないようにして、のどを安静に保つことで自然に元に戻ります。しかし、特別な理由もなく声がかれてきた時や、声がれが長期に及ぶ時は、声帯の病気である可能性があり、適切な治療が必要になります。
声がれ症状から考えられるおもな病気
声がれの原因となる喉頭の病気には、以下のようなものがあります。
喉頭炎(こうとうえん)
声がれの中でも一番多い原因で、感染や喫煙といった何らかの理由で喉頭に炎症が起きてしまう状態の総称です。中でも代表的なのが、風邪やインフルエンザ感染による急性喉頭炎で、声がれのほか、咳やのどの痛み、発熱を伴うのが特徴です。
急性喉頭炎の場合、通常、病気が快復すると声も自然に戻ります。しかし、声帯に負担がかかった状態が長く続くと、声がれが慢性化する場合もあります。
慢性喉頭炎の場合、熱などの急性症状はありませんが、喉頭の粘膜が腫れて空気の通り道が狭くなるため、咳が続き、呼吸が苦しくなることもあります。
急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)
インフルエンザ菌b型(インフルエンザウイルスとは異なる)による感染(ヒブ感染症)が原因で、喉頭の「ふた」である喉頭蓋(こうとうがい)に炎症が起こる病気です。発症すると声がれのほか、発熱、のどの痛み、息がしにくい、物を飲み込みにくいといった症状が現れます。
空気の通り道である喉頭蓋の腫れは、窒息の可能性があるため、呼吸困難を伴う時は、声帯の下にある気管に穴を開け、気道を確保する緊急処置「気管切開」を行う場合もあります。
声帯ポリープ
声帯の炎症が原因で、声帯にポリープ(できもの)ができる病気です。アナウンサ―や歌手、先生のように声をよく使う職業の方や喫煙者に多く見られるのが特徴です。
ポリープが邪魔して声帯がうまく閉じられなくなるほか、声帯の振動もうまく伝わらなくなるため、声がれや、声を出す時の息もれ、声が低くなる、声がプツプツ途切れるといった症状が現れます。
声帯結節(せいたいけっせつ)
声帯の粘膜に「ペンだこ」のような結節(しこり)ができる病気です。長い間、無理な声の出し方を続けていると発症しやすく、声を良く使う職業の方や小さなお子さんに多いのが特徴です。日によって声の調子に波があり、長時間のどを使うと声が出しにくくなり、痛みが出る場合もあります。
声帯麻痺(せいたいまひ)
声帯の動きを司っている「反回神経(はんかいしんけい)」が何らかの理由でダメージを受けてしまった状態で、反回神経麻痺(はんかいしんけいまひ)とも呼ばれます。
反回神経は、とても複雑な経路を持っていて、どこの部分が損傷しても麻痺が起こることがあるため、心臓、食道、肺、甲状腺といったさまざまな器官の病気が原因で発症します。
麻痺が起こると、声帯の動きがコントロールできなくなり、声がれや誤嚥(ごえん:食べた物が気管に入り込む)、むせるといった症状が現れます。
特に、左右の声帯が閉じかけた状態で麻痺すると、空気の通り道が狭くなり、喘鳴(ぜんめい:呼吸時にゼーゼー、ヒューヒュー音がする)や呼吸困難を引き起こす危険性もあります。
声帯萎縮(せいたいいしゅく)
加齢や特定の病気(声帯麻痺、声帯溝症*1)が原因で、声帯の容積(分量)が減り、声帯がうまく閉じられずにすき間ができた状態です。声がれのほか、声が出しにくい、弱々しい声になるといった症状が出ます。
*1声帯溝症は、声帯の粘膜の縁に溝ができる病気で、先天的なものと炎症によって発症するものがあります。
喉頭がん
喫煙や過度の飲酒などにより、喉頭にできるがんです。耳鼻科で扱うがん(悪性腫瘍)の中で最も患者数が多く、男性に多く見られるのが特徴です。がんが声帯部分にできた場合、初期に声がれの症状が出ることが多く、進行すると息苦しさ、呼吸時の違和感、飲み込みにくいといった症状も現れます。(※声帯以外に発生したがんの場合、はっきりとした初期症状がなく、進行してからがんが見つかるケースもあります。)
下咽頭がん
のどの「咽頭(いんとう)」の中でも下の方(下咽頭:食道の入り口付近)にできるがんです。過度の飲酒がきっかけになることが多く、高齢男性に多く見られますが、鉄欠乏性貧血の女性に発症するケースもあります。発症初期は、のどの痛みや違和感が現れ、進行すると声がれや息苦しさも感じるようになります。
声がれの症状を調べる検査
声がれの原因を調べるには、主に以下のような検査を行います。
問診、聴診
医師が、発症の時期や生活習慣(喫煙、飲酒など)、声がれを起こすきっかけの有無を詳しくお伺いします。また、患者さんに実際に発声してもらい、声がれの状態を確認します。声帯ポリープや声帯結節であれば、患者さんの声の状態からある程度、病気を予想できる場合もあります。
喉頭内視鏡検査
喉頭の検査で、もっとも主要な検査で、口や鼻から電子ファイバースコープ(喉頭内視鏡)を挿入し、声帯を始めとする喉頭の状態を確認します。喉頭内のポリープや結節、がんなどの病変を、モニター越しに直接目で見て発見できるうえ、安静時や声を出した時の声帯の動きも観察することが可能です。
喉頭ストロボスコピー検査
声帯の動きの異常を調べる検査です。高速の光(ストロボ)を連続発光させることで、患者さんの発声中の声帯の振動をスローモーション像で観察することが可能になります。
その他
声帯麻痺が疑われる場合、まずは麻痺の原因がどこなのかを突き止めることが最も重要です。そのため、必要に応じて頸部(くび)、胸部、食道、消化器の検査(レントゲンもしくはCT、内視鏡検査)を、専門の診療科で受けていただく必要があり、声がれの治療を始めるより前に、原因となる病気の治療を優先して行うことになります。
声がれのおもな治療法
声がれ治療の基本は、「声帯に負担をかけないようにのどの安静を保つこと」です。
さらに必要に応じ、「薬物療法」「外科手術」「声のリハビリ(トレーニング)」という治療の3本柱から、病気の種類に合わせた治療を行います。
薬物療法
喉頭に炎症(ポリープや結節も含む)が起きている場合は、炎症を抑えるため、消炎薬の内服を行います。細菌が原因で起きる喉頭蓋炎の場合は、細菌を殺すための抗菌薬も使用します。
さらに当院では、内服治療と合わせ、通院時のネブライザー治療(炎症を抑えるための薬を霧状にして吸入する)を行うことで、効果的に声がれを改善させることが可能です。
外科手術
薬物療法で改善が見られない、もしくはサイズがとても大きいポリープや結節の場合、外科手術による摘出を行います。
がんの場合も、まずは喉頭の温存を目指し、抗がん剤や放射線による治療を行いますが、ステージによっては手術が必要になります。比較的、初期のがんであれば、腫瘍だけを取り除き、喉頭を残すことも可能ですが、進行してしまうと喉頭全体を摘出しなければならないケースもあります。
また、声帯の容積が減ってしまう声帯萎縮の治療の場合、声帯の位置を中央に寄せてすき間をなくす手術や、医療用の高純度のコラーゲン(アテロコラーゲン)または自家脂肪(患者さんご自身の脂肪)といった物質を注入して物理的に声帯の容積を増やす手術があります。
音声治療(声のリハビリ)
言語聴覚士による医学的なボイストレーニングで、腹式呼吸法や声の出し方などを練習します。
声帯ポリープや声帯結節は、手術で摘出することできれいな声に戻りますが、誤った声の出し方を続けていると、再び発症してしまうことから、声帯の負担を減らすための正しい発声法(のどに力を入れずに話すような訓練)を身に付けます。
よくあるご質問
1)声がれで受診した方が良いのはどんな時ですか?
通常の風邪であれば1週間程度で声も元通りになりますが、声がれが2週間以上続くような時は受診することをおすすめします。また、たとえ2週間未満であっても、呼吸困難を伴う時は、至急治療が必要になることもあるので、早急に受診してください。
2)声がれを予防する方法はありますか?
喫煙や過度の飲酒は習慣化していることが多く、長期的なのどの刺になってしまうため、控えるようにしましょう。また、スポーツ観戦時の応援、長時間のカラオケなど、日頃から大きな声を出し続けないことも大切です。
さらに、風邪予防も大切です。のどの乾燥から風邪を引きやすくなるため、口ではなく鼻で呼吸する、水分をこまめにとる、マスクを着用するなど、適度な潤いを保つようにしましょう。
普段、当たり前のように使っているものですが、のどはとてもデリケートな器官です。日頃からこまめなセルフケアを心がけましょう。
3)職業柄、声をよく使うため、声がかれやすいです……。
声帯に負担をかけ続けると慢性的な炎症の原因となるため、仕事以外の時間には、できるだけ声を使わず、のどを休めるようにしましょう。
また、声帯を傷めないような正しい発声法(のどに力が入らないようにする)を学んでおくことも有効です。
まとめ
「声」は、周囲の人とコミュニケーションをとり、お互いの理解を深める上でなくてはならないものです。声がれは、他の人からは気付きにくい症状ですが、患者さんご本人にとってはとても不便であるうえ、仕事に直結することも多いことから、生活の質(QOL)を大きく落としてしまいます。
声がれを伴う病気は、軽いものから深刻な病気のものまでさまざまです。
様子を見ているうちに症状が進んでしまうと、最悪、声を失ってしまうような場合もありますので、声の異常に気付いた時は、放置せず、早めに耳鼻咽喉科で検査を受けることをおすすめします。