鼻の病気

花粉症

花粉症

花粉症とは、スギやヒノキなどの花粉が原因となって起こるアレルギー疾患の総称で、花粉が飛散している時期にだけ発症する特徴があります。花粉症はアレルギー体質の人がなりやすく、日本アレルギー学会の調査によると、東京都では約34%がスギ花粉症と報告されており、当院のある大田区でも約24万人、馬込地区では約1.9万人の患者さんがスギ花粉症に悩まれています。

花粉症の主な症状は、くしゃみ・鼻水・鼻づまりや目のかゆみ・充血・涙目ですが、アレルギー症状の出方には個人差があります。

近年の花粉症治療では、出ている症状を軽くするための治療(対症療法)に加えて、スギ花粉症であれば、アレルゲン(原因となっている物質:スギ花粉)を少しずつ取り込み、体を慣れさせることで、現れる症状を軽減させたり、日常生活への影響を少なくしたりできる可能性のある「アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)」が行われています。

花粉症は、花粉を避けるなどセルフケア対策も大事ですが、毎年決まった時期に鼻の症状や目の症状・全身症状でつらい思いをされている方は、お気軽に当院へご相談ください。

花粉症の症状について

花粉症の症状は、原因となるアレルゲン“花粉”が体内に入り込みやすい部分である鼻や目(結膜)に現れます。

・くしゃみ・さらさらとした水っぽい鼻水・鼻づまり……アレルギー性鼻炎
・目のかゆみ・充血・涙目……アレルギー性結膜炎
・微熱や頭痛
・体がだるい
・喉や首・顔がかゆい(肌荒れ)
・(不快症状のせいで)イライラする・集中力が低下する・眠れない

また、アレルギー症状は全身に現れる可能性があり、さらに出る場所や症状の強さには個人差があります。

花粉症の原因と発症のしくみ

花粉症の原因は、スギやヒノキなど植物の花粉が体内に侵入することです。
体が花粉を排除・取り除こう(=アレルギー反応)として、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどを起こします。

花粉症の原因となる植物

実は、花粉症の原因となる花粉は、スギだけではありません。
日本では約60種類あります。

東京都福祉保健局によると、東京都近郊では春になるとスギ・ヒノキが多く飛散し、初夏(5月~7月)になると、イネ科のカモガヤ(道端に生育)・ネズミホソムギ(公園や河川敷に生育)など、秋になるとススキ・ブタクサ(秋の花粉症の代表格)・ヨモギなど草木からの花粉が飛散しています。


(図)東京都近郊の花粉飛散カレンダー

花粉症の症状が現れるしくみ

ヒトには「免疫」と呼ばれる、体内へ侵入するウイルスや細菌など異物を排除する働きがあります。

免疫システムによって、花粉が体内に入ってくるたびに、異物(花粉)に対抗するための抗体(IgE抗体)が作られるようになり、少しずつ体内に蓄積されます。

この蓄積量が一定レベルを超えると、次に花粉が入ってきた際に、花粉を体から排除しようと免疫反応(アレルギー反応)が現れ、くしゃみや鼻水、目のかゆみ充血などが起こるようになります。

花粉症の検査について

花粉症は、花粉の飛散時期、問診と自覚症状・他覚所見からの判断をしていきますが、最終的な診断は血液検査になります。

①問診と視診

目のかゆみの有無、発症した時期など症状のこと以外にも、アレルギー性疾患の有無、家族のアレルギー歴などについてお伺いします。
顕微鏡で鼻水を調べる(鼻汁好酸球検査)、鼻の粘膜の色や鼻水の性状、目の状態の観察を行います。

②血液検査

何がアレルギーの原因物質となっているか、花粉に反応するIgE(特異IgE)を血液から調べます。

血液検査は、希望者のみに行われることが多い検査ですが、診断をすることで、アレルゲンの回避や、舌下免疫療法の適応があるかわかりますので、知っておくと良いでしょう。

ほかにもアレルゲンを調べる検査には、皮膚へのパッチテストもあります。

花粉症の治療について

薬物療法

花粉症治療の基本は、症状を抑える「薬物療法」となっています。

花粉症に対する薬物療法の主力として、くしゃみ・鼻水・鼻づまり、目のかゆみなどの治療に使われているのが「抗ヒスタミン薬」です。
以前はよく“花粉症の薬は眠くなる”と言われていましたが、現在は眠くなる副作用を抑えた“第2世代抗ヒスタミン薬”が主流となっています。また、パイロットや運転手の方でも服用できるアレルギー薬もありますので、お気軽にご相談ください。

そのほか、鼻づまりが強いときには「抗ロイコトリエン薬」や「鼻噴霧用ステロイド薬」、目の症状がある場合には「点眼薬」など、症状に合わせて処方されます。
鼻噴射用ステロイド薬は鼻だけに作用するようにできているので、体内への吸収率は低く、ステロイド内服薬よりも副作用は抑えられています。

また、鼻水・鼻づまりをなくすために、薬の吸入治療(ネブライザー)も適宜行い、治療をしていきます。

レーザー治療

薬物療法で十分な効果が得られないほど、鼻症状(特に鼻づまり)が強い場合には、レーザーで鼻の粘膜を焼いて、アレルギー反応を抑える「レーザー治療」を行うことがあります。
保険適用で治療可能で、片鼻10分程度、外来で処置ができます。花粉が飛んでいる時期には効果が不十分となってしまうため、スギ花粉症がある方は2~4月はレーザー治療ができません。

アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)

アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少しずつ体に取り込み、時間をかけてアレルゲン(花粉症の場合:スギ花粉)に体を慣らす方法で、花粉症の唯一の根治療法です。
現在は“スギ花粉”のみ適応となっています。

花粉症のオフシーズンである6月~12月の間に摂取を開始する必要があり、3~5年くらい続けることで、症状を軽くしたり、日常生活に与える影響を改善したりする効果が期待できます。

アレルゲンの取り込み方法には、注射による「皮下摂取」と舌の下に薬を入れて飲み込む「舌下(ぜっか)摂取」の2通りがあります。

当院では、6歳以上のお子さんも服用でき、1日1回の服用でよい治療薬による「舌下免疫療法」を行っています。症状でお悩みの方は、是非ご相談ください。

重症花粉症の注射治療

従来の薬物療法(内服薬と点鼻薬併用)でも、症状が続き、日常生活を満足に送れず、外出の制限を受けている方もいると思います。
12歳以上の方で「重症花粉症」と診断され、血液検査の結果で医師が必要と判断された方には、抗体治療薬の注射による症状緩和の治療があります。

この抗体治療薬は、もともと気管支喘息や突発性の慢性蕁麻疹の治療薬として使われていましたが、スギ花粉症の治療薬として、2020年より保険適応となりました。

花粉症によるアレルギー反応とは、IgE抗体が結合した状態のマスト細胞(免疫細胞)にスギ花粉(アレルゲン)が結合した際に、スギ花粉を排除するための化学物質(ヒスタミン・ロイコトリエンなど)がマスト細胞から放出されることを意味します。

この抗体治療薬は人工的に作られたお薬で、体で作られるアレルゲン(スギ花粉)の抗体(IgE抗体)に結合することで、IgE抗体のマスト細胞との結合をブロックします。
その結果、体内にスギ花粉が侵入したとしても、IgE抗体が結合していないマスト細胞とは結合できないため、化学物質は放出されず、アレルギー反応を抑える働きをするのです。

この治療では、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみなどの症状改善のほか、不快症状によって低下していたQOL(生活の質)を改善する効果も期待できます。

抗体治療薬は、スギ花粉の飛散時期(2~4月頃)に月1~2回、病院で上腕外側、下腹部、太もも、おしりなどの皮下に注射して投与します。

抗体治療薬には既に現れている不快症状を抑える作用はないため、投与中もこれまで使用していたお薬(抗ヒスタミン薬など)は、原則併用します。
※自己判断で、薬の減量や中止をしないように注意しましょう。

注射部位の腫れ・赤み・かゆみ・痛みなどの副作用がみられますが、いずれも数日で治まります。ただし、稀ですがアナフィラキシー反応が発生する可能性もありますので、呼吸困難・立ちくらみ・失神・蕁麻疹・全身のかゆみ・のどの奥の腫れなどの症状が見られたら、すぐにご連絡ください。抗体治療薬の投与後、2時間程度はできるかぎり病院のお近くで待機していただくようお願いします。

また、抗体治療薬による注射は保険適用となりましたが、それでも高価なお薬です。
例として150mgを月1回投与する場合、自己負担3割での費用目安は約1.4万円となり、1シーズン(約3か月)あたり約4.2万円です。(※別途、診察料や血液検査料がかかります。また、使用する薬剤量は患者さんの体重やIgE値によって異なります。)
なお、ひと月の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超えた分の払い戻しができる「高額療養費制度」など医療費のサポート制度もあります。自己負担限度額は、患者さんの年齢や年収などによって異なりますので、詳しくはご加入の健康保険先(国民健康保険ならお住いの自治体など)までお問い合わせください。

(参考)抗体治療薬による注射に関しては、次のHPもご参照ください。
・重症花粉症ドットコム https://secure.novartis.co.jp/kafun_kyousei/severe_pollinosis/
・ノバルティス ファーマ株式会社 https://hajimete-xolair.jp/


よくあるご質問

1)花粉症になりやすい人はどんな人ですか?

アレルギー体質の人は、花粉症になりやすいとされています。
このアレルギー体質は遺伝的要素が強く関係しているとされ、過去に喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患になったことがある人やアレルギー疾患を持った家族がいる人は、なりやすい傾向があります。

さらに、ストレスや大気汚染、食生活の変化なども相まって、現代人はアレルギー体質の人が増えています。

2)「花粉症」と間違いやすい病気はありますか?

花粉症と似ている病気に、次のようなものがあります。

・風邪(引きはじめ)
くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどは、風邪の引きはじめによく見られます。
しばらく経っても改善しない場合には、病院を受診しましょう。

・通年性アレルギー性鼻炎
ダニなどハウスダストがアレルゲン(抗原)となるため、特定の季節や時期に関係なく、一年中起こるアレルギー性鼻炎です。
花粉症同様、対症療法のほか「アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)」による治療も始まっています。

・血管運動神経性鼻炎
主に寒暖差やストレスなどが原因で、アレルギーではありません。
自律神経のバランスが悪くなることで、花粉症のようなアレルギー性鼻炎症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまりなど)が起こります。中高年の女性に多い傾向があります。

3)花粉症は自然に治りますか?

花粉症はアレルギー疾患の一つですが、食物アレルギーなどとは異なり、成長と共に自然治癒することはありません。

最近は発症の低年齢化も進んでおり、2~3歳くらいで花粉症を発症するお子さんも少なくありません。
小さなお子さんの場合、大人よりも症状がはっきりと出ないで、鼻づまりだけ、目や鼻をかゆがるだけなど、曖昧なこともよくあります。

花粉症とは気づかず、治療せずそのままにしていることで、難聴を引き起こす可能性のある滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)や副鼻腔炎などの引き金になったり、治りが悪くなったりするケースもあります。

まとめ

花粉症は鼻や目の症状以外にも、イライラしたり、睡眠障害が起こったり、思考力が低下するなど、QOL(生活の質)にも影響を及ぼすことがある“厄介な病気”です。

これまでの花粉症治療は、できるだけ花粉を取り込まないよう予防するセルフケアと並行して、症状が出てから対処する薬物療法が一般的でした。
しかし、近年は花粉シーズンの少し前から予防投与を始めることで、花粉シーズン中の症状が軽減できたり、根治治療である「アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)」が保険診療で行われるようになったり、注射で症状を改善させる薬がでてきたりと、有効な治療の選択肢が広がってきました。

花粉症の症状でお悩みの方、鼻水や鼻づまりが長引いている方は、是非お気軽に当院までご相談ください。

記事執筆者

記事執筆者

馬込駅前あくつ小児科耳鼻咽喉科
院長 岩澤 敬

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器相談医
日本めまい平衡学会 めまい相談医

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馬込駅前院 予約

西馬込あくつ耳鼻咽喉科
院長 阿久津 征利

日本耳鼻咽喉科学会 専門医
日本めまい平衡医学会 めまい相談医
臨床分子栄養医学研究会 認定医

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鼻の病気

  1. スギ花粉の舌下免疫療法

  2. 慢性副鼻腔炎

    慢性副鼻腔炎

    慢性副鼻腔炎は後鼻漏以外に頭痛・頭重感を伴うことがあります。原因はアレルギー・虫歯・カビがあり検査が必要になります。検査は内視鏡検査やCTにて診断します。治療は鼻処置を行い、抗生剤などを併用。症状によって漢方薬を併用します。自然治癒することもありますが、治らない場合は手術になることがあります

  3. アレルギー性鼻炎

    アレルギー性鼻炎

    ホコリや花粉など、特定の物質により、くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの鼻炎症状が起きる病気が「アレルギー性鼻炎」です。

  4. 花粉症

    花粉症とは、スギやヒノキなどの花粉が原因となって起こるアレルギー疾患の総称で、花粉が飛散している時期にだけ発症する特徴があります。花粉症はアレルギー体質の人がなりやすく、日本アレルギー学会の調査によると、東京都では約34%がスギ花粉症と報告されており、当院のある大田区でも約24万人、馬込地区では約1.9万人の患者さんがスギ花粉症に悩まれています。

  5. 花粉症・鼻炎に対するレーザー治療

    鼻炎に対する治療には「薬物療法」のほかに、腫れている鼻粘膜を焼いて、アレルギー反応を抑える効果が期待できる「レーザー治療」もあります。

  6. ダニアレルギー(ハウスダスト)の舌下免疫療法

    「通年性アレルギー性鼻炎」の治療として、薬物療法やレーザー治療のほかに、アレルギーに体を慣らすことで完治する可能性のある「舌下(ぜっか)免疫療法」を行っています。

  7. 急性副鼻腔炎

    急性副鼻腔炎は、副鼻腔に炎症が起こり、粘りのある濁った鼻水や鼻づまりなどの症状が現れる病気で、頭痛や顔の痛み、歯の痛みなどを伴うこともあります。

  8. 蓄膿症(慢性副鼻腔炎)

    慢性副鼻腔炎は、粘りのある黄色い鼻水や鼻づまりが3ヶ月以上続く病気で、発症すると副鼻腔に膿が溜まることが多いことから、「蓄膿症(ちくのうしょう)」と呼ばれることもあります。

  9. 鼻血(鼻出血)

    鼻血がよく出る原因は、鼻をいじってしまう刺激が原因で起こります。軽症の場合、看護師から出血の止め方の指導をします。重症の場合は止まらない場合がありますので、電気メスで止血を行います。子供は鼻をよくいじるため出血を繰り返すことがあります。

  10. 嗅覚障害

    嗅覚障害(きゅうかくしょうがい)とは、人間が持つ五感の一つである「におい」を正確に感じることができなくなる状態です。