鼻の病気

嗅覚障害

嗅覚障害



嗅覚障害(きゅうかくしょうがい)とは、人間が持つ五感の一つである「におい」を正確に感じることができなくなる状態です。

嗅覚の低下は、鼻風邪や花粉症などの身近な病気でも起こり、多くの人が経験したことがある症状のため、ついつい様子をみてしまう方も多いと思います。

しかし、症状が長引くと嗅覚が元に戻らなくなる場合がある他、深刻な病気の初期症状の一つとして発症するケースもあるので注意が必要です。

嗅覚障害は50歳代の方に多いとされ、女性がなりやすいと言われています。女性のほうが男性に比べ嗅覚に優れているため、嗅覚の低下に敏感なためです。

嗅覚障害の症状について


嗅覚障害で現れる症状にはいくつかのパターンがあります。

①においを感じない
②においが分かりづらい
③本来と違うにおいを感じる
④何を嗅いでも同じにおいがする
⑤少しのにおいであっても、強い悪臭に感じる

嗅覚障害で一番多いのは、①と②のような「においを嗅ぐ力が低下する、もしくはなくなってしまう」タイプです。完全ににおいを感じなくなった状態を「無臭症」と言います。

その一方で、③~⑤のように「においの感じ方(嗅感覚)」に障害が出るタイプの嗅覚障害もあります。
これらは、「嗅覚錯誤(きゅうかくさくご)」と言われるもので、代表的なものの中には、③や④のように本来のにおいとは違うにおいに感じる「異臭症」や、においに極端に敏感になる⑤のような「嗅覚過敏」があります。

嗅覚障害を引き起こす原因は?



(画像引用)日本鼻科学会 嗅覚障害診療ガイドライン
※鼻腔内の天井部分にある黄色い箇所がにおいを感知する嗅粘膜です。

左右の鼻腔(びくう:鼻の中)の奥には、「嗅粘膜(きゅうねんまく)」と呼ばれる「におい」を感じるセンサーの役割を持つ粘膜があります。

鼻の穴から取り込まれた「におい物質」は、嗅粘膜のセンサーに到達すると、その刺激の信号が嗅神経を通じて脳に伝わり、「におい」として認識されるしくみになっています。

嗅覚障害はこの「においの伝達経路」のどこかに不具合が起きることで発症しますが、どこの部分の障害かによって、それぞれ原因は異なります。

①気導性嗅覚障害


呼吸時に鼻から入ってきた「におい物質」が何らかの理由で、嗅粘膜に到達できず、においを感じることができなくなるため発症するもので、嗅覚障害の中でも一番多いのがこのタイプです。

慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などの鼻の疾患がきっかけになることが多く、鼻腔内の炎症で粘膜が腫れて鼻がつまる他、症状が進行して大きな鼻茸(ポリープ)ができてしまい、空気の通りが悪くなることもあります。

その他には、鼻の中を左右に分ける骨が曲がっている「鼻中隔弯曲症」が原因となる場合もあります。

②嗅神経性嗅覚障害


においを伝達する「嗅神経」が何らかの理由で傷害を受けることで、においを感じることができなくなります。

おもな原因は、呼吸器疾患を引き起こす感冒ウイルス(アデノウイルス、ライノウイルス、インフルエンザウイルスなど)や、顔や頭などの外傷で、嗅神経が傷ついてしまうことで発症します。

その他、薬剤性(※抗がん剤「テガフール」「メルカゾール」「インターフェロン」など)、中毒性、加齢などでも発症する場合があります。

③中枢性嗅覚障害


嗅神経よりも内側の脳にダメージがあり、においの情報を処理して正しく認識することができなくなることで発症します。

脳挫傷などの脳の外傷や脳の病気による発症が多いですが、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経の病気の初期症状として現れる場合もあります。

中枢性嗅覚障害の場合、嗅覚が低下するだけでなく、認知能力や識別能力などの低下が見られるのも特徴です。

※さらに上記の3種類以外にも、先天的な原因や精神的な原因により嗅覚障害を発症する場合があります。

嗅覚障害の検査と診断


嗅覚障害の症状や程度、原因などを確定するため、以下のような診察・検査を行います。

①問診


発症時期や症状の他、異臭や味覚障害の有無、これまでの病歴やお薬の服用歴、喫煙、職業、日常生活への影響などの幅広い情報を詳しくお聞きします。

②鼻内視鏡検査


鼻から2㎜程度の細いファイバースコープを挿入し、鼻腔内の腫れや鼻茸(ポリープ)、鼻水など、「におい物質」の伝達が妨げられるものがないかを確認します。
患部の炎症の状態が分かるので、気導性嗅覚障害の多くはこの検査で診断することが可能です。

③画像検査(レントゲン、CT、MRI)


鼻内視鏡検査を行い必要があれば、CTを行う場合もあります。
頭部や脳内の異常による症状が疑われる場合はMRI検査を行います。

④嗅覚検査


においを実際に嗅いで、そのにおいに対する患者さんの反応を見る検査です。
当院では以下の検査を実施しております。

・静脈的嗅覚検査(アリナミンテスト)
強い臭いのあるアリナミン(ニンニク臭)を静脈に注射し、呼気中のにおいが発生するまでの時間とにおいの持続時間を調べる検査で、鼻づまりが嗅覚障害の原因かを確かめることが可能です。

嗅覚障害の治療について


嗅覚障害の治療は、患部の炎症を抑えるためのステロイド剤の点鼻やビタミン剤・漢方薬の内服が基本となりますが、さらに、特定の病気が原因になっている場合は、それぞれの病気の治療も並行して行います。

・慢性副鼻腔炎……ネブライザー治療、少量のマクロライド系抗生物質(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)を3~6カ月間服用(マクロライド療法)
※薬物療法だけでは改善しないような大きな鼻茸(ポリープ)がある場合は手術を説明することがあります

・アレルギー性鼻炎……ネブライザー治療、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)の服用

・鼻中隔弯曲症……手術療法(手術ができる病院へ紹介します)

(画像)ネブライザー治療の様子
※霧状の薬を口や鼻から吸入し、患部に効率よく薬を作用させる治療です。

また、感冒や外傷などが原因で嗅神経が傷付いてしまった嗅覚障害は、残念ながら確立された治療法がまだないのが現状ですが、神経の働きを活性化するため、ステロイド治療の他にビタミン製剤、漢方薬、代謝を改善する薬などの処方を行います。

嗅覚の改善には数ヶ月~数年という長い期間がかかることがありますので、気長に治療を続けていく事が大切です。

よくあるご質問


1) 嗅覚障害は予防できますか?


発症には様々な原因があるため、嗅覚の低下を確実に予防するというのは難しいのですが、まずは風邪を引かないようにすることが大切です。

風邪を引くと嗅覚の粘膜に炎症が起こり、副鼻腔炎などにかかるリスクが高くなってしまいます。
こまめに手洗いなどの感染対策を行うなどして、日頃から風邪予防に取り組みましょう。

2) ステロイド治療の副作用が心配です。


嗅覚障害の治療では、少量のステロイドを局所的(鼻)に使うため、それほど副作用の心配をする必要はありません。

しかし、症状が重く、治療が長期間になるような場合は、やはり副作用が起きるリスクも高まりますので、必ず医師の指示に従って治療を行うようにしましょう。当院では3か月から半年を目途に治療をしています。

3) 嗅覚の低下を予防する方法はありますか?


欧米などで広く行われている「におい治療」に、1日2回5分程度、4種類のにおい(バラ、ユーカリ、レモン、クローブ)を嗅ぐ訓練を長期間行う「嗅覚刺激療法」というものがあります。

意識して臭いを嗅ぐことで嗅神経細胞の数が増え、一度低下してしまった嗅覚を再生させることができると考えられており、薬物療法では効果がない嗅覚障害であっても改善が期待できるという研究結果も報告されています。

新しい治療法のため、日本ではまだあまり普及していないのが現状ですが、日常生活の中でも、食べ物や花などの身近なにおいを意識して嗅ぐことは、ご自身の嗅覚の状態を確認する上でも有効ですし、嗅覚の低下を予防する効果も期待できるので、日頃から意識してにおいを嗅ぐトレーニングの習慣をつけておくのも良いでしょう。

まとめ


においの障害というのは、周囲からはなかなか気付きにくい症状ですが、患者さん本人にとってはとてもつらいものです。

「食事を美味しく感じる」「好きな香りでリラックスする」など、嗅覚は私たちの生活の質(QOL)を高めてくれるものですが、食品の腐ったにおいや火事、ガス漏れなど、身の回りの危険を察知し、安全な生活を送る上でも、欠かせない感覚の一つです。

発症の多くは、鼻の病気が原因となる場合が多いですが、中にはアルツハイマー病やパーキンソン病といった深刻な病気の初期症状であるケースもあり、嗅覚の衰えや異常に気付くことで、これらの病気の早期発見につながる可能性も期待されています。

最近、においの感じ方に変化や異常が現れた方は、症状を放置してしまわずに、お気軽に当院にご相談ください。

新型コロナウイルスが流行している時期は、まずは1週間の自宅待機が推奨されております。それでも改善しない場合に、ご受診ください。

記事執筆者

西馬込あくつ耳鼻咽喉科
院長 阿久津 征利

日本耳鼻咽喉科学会 専門医
日本めまい平衡医学会 めまい相談医

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