小さいお子さんがいらっしゃる方は、一度くらい「溶連菌(ようれんきん)」の名前を耳にしたことがあるかもしれません。
溶連菌はよくみられる細菌(ばい菌)のひとつで、ひとたび抵抗力が落ちて溶連菌の力が上回ると、のどの痛み・発熱(38℃以上の高熱)など様々な症状を引き起こす「溶連菌感染症」となります。
溶連菌感染症は4歳頃~小学生くらいまでのお子さんに多くみられますが、大人もかかります。溶連菌は感染力が高く、家庭や学校などの集団生活の場で感染が広がりやすいので、注意が必要です。
溶連菌感染症は「抗生物質」を内服すると、すみやかに症状が改善していきます。 ただし、途中で内服をやめると、再発やリウマチ熱・腎炎などの合併症を起こす可能性もあるので、処方された分を最後まできちんと飲み切ることが大事です。
当院では、溶連菌の感染を調べる「迅速検査」を行っており、5分程度で結果が判明します。
症状がみられたら、早めにご来院ください。
溶連菌とは?
溶連菌とは、「溶血性連鎖球菌(ようけつせいれんさきゅうきん)」と呼ばれる細菌の略語です。
この溶連菌は「常在菌」のひとつであり、健康な人の体にも存在する菌です。
また、溶連菌にはいくつか種類がありますが、中でも感染症を引き起こす割合が高いのが「A群β溶血性連鎖球菌」です。
溶連菌感染症とは?
溶連菌感染症とは、溶連菌が原因菌となって引き起こされている病気の総称であり、細菌が侵入した場所・組織によって、様々な症状を現します。
溶連菌感染症の主な症状
溶連菌感染症は、喉の痛み・高熱など重い風邪やインフルエンザのような症状が現れますが、鼻水・鼻づまり・咳・くしゃみなどはあまり出ない特徴があります。
- 喉に強い痛み
- 発熱
- 首のリンパ節の腫れ
- 発疹
- 苺舌(赤いブツブツが目立つ)
※ただし、3歳以下の乳幼児や成人では、上記のような典型的な症状が出ない場合があります。
溶連菌感染症の潜伏期間と感染経路
- 潜伏期間
2日~5日 - 感染力
強い ※急性期が一番感染力大 - 感染経路
飛沫感染……感染者から飛んだ唾液・分泌物を鼻・口などから吸いこみ感染
接触感染……菌の付いたタオル・食器・ドアノブ・手すりなどを触る、菌の付いた食品から感染 - 感染しやすい時期
一年を通して感染するが、特に5~6月・12~3月 - 感染しやすい年齢
4~12歳 ※ピークは5~10歳、大人も感染する
溶連菌感染症の代表的な病気
溶連菌感染症として、日常よくみられる病気には、以下のようなものがあります。
- 急性咽頭炎(きゅうせんいんとうえん)
突然の発熱・全身倦怠感(だるい感じ)、喉の痛み・嘔吐が現れます。喉が赤く腫れて、苺舌がみられることがあります。 - 急性扁桃炎(きゅうせいへんとうえん)
舌の付け根の両側にあるリンパ組織「扁桃」が赤く腫れ、膿がます。喉の痛み・高熱・嘔吐がみられます。喉の痛みで食事を摂ることが難しいケースもあります。首のリンパ節の腫れや頭痛、関節痛などの全身症状を伴います。 - 伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)
いわゆる「とびひ」です。皮膚バリアの低下時に虫刺され・湿疹などをかき壊した部位に溶連菌が感染すると、小さな膿胞(膿の溜まった水ぶくれ)が多数できて、破れると「分厚いかさぶた」となります。周囲や離れた場所などに広がりやすいです。のどの痛み・発熱を伴うこともあります。 - 蜂窩織炎(ほうかしきえん)/ 蜂巣炎(ほうそうえん)
とびひと同じように皮膚への感染症です。皮膚(特に足のすね・甲)に赤み・腫れ・熱感・痛みがみられ、発熱や悪寒・倦怠感を伴うこともあります。患部を安静にさせて、氷で冷やすとよいでしょう。 - 猩紅熱(しょうこうねつ)
のどの痛み・発熱、苺舌、首やわきの下などシワができる部分に赤い点状のザラザラした発疹ができ、全身に広がります。両頬が赤くなりますが、口の周りは白く抜けます。発疹は1週間程度で消え始めますが、皮膚のかさつきはしばらく残ります。
ほかにも、中耳炎・肺炎・化膿性関節炎(関節の感染症)・骨髄炎(骨の感染症)・髄膜炎(脳を覆う膜の炎症)などを引き起こすことがあります。
溶連菌感染症の合併症
溶連菌感染症が長引くことによって、次のような合併症がみられる場合があります。
- リウマチ熱
心臓・関節・神経などに炎症が起こり、発熱・関節痛・けいれんのような体の震え・胸痛・息切れ・発疹などがみられます。後遺症として、心臓弁膜症を起こすことがあります - 急性糸球体腎炎
おしっこの量が減り、むくみ・血尿(コーラのような色)・高血圧がみられます。
こうした厄介な合併症の発症を防ぐためにも、溶連菌感染症は速やかに治療する必要があります。
溶連菌感染症の検査・診断
溶連菌感染症は、喉への溶連菌感染を調べる検査と症状・年齢などを組み合わせて、総合的に診断します。
溶連菌迅速検査
患者さんの年齢や症状から溶連菌感染が疑われる場合に行います。
ただし、溶連菌を喉に保菌*1しているだけでも陽性となることがあるので、症状と照らし合わせて診断します。
専用の検査キットがあり、綿棒で喉をこするだけで簡単に調べることができます。
結果は5分程度で判明します。
*1溶連菌の保菌:溶連菌が喉に住み着いているものの、感染は起こしていない状態。健康な子供の約15%~30%にみられる。基本的に周囲への感染の恐れはなく、症状もない場合には治療不要。
細菌培養検査
綿棒で喉をぬぐったものを培養して、細菌の種類を調べる検査です。検査機関で調べる必要があるため、結果が分かるまで数日かかります。症状が長引いている時などに、効果のある抗生物質を調べる目的で行うことが多いです。
抗体検査
リウマチ熱や急性糸球体腎炎を合併している疑いがある場合に行います。検査機関で調べる必要があるため、結果が分かるまで数日かかります。
溶連菌感染症の治療
溶連菌感染症の基本治療は、薬物療法となります。
しっかりお薬を服用することで、速やかに症状が改善するだけでなく、周囲への感染を防ぎます。また、合併症予防にもなりますので、途中でやめたりせずにきちんと最後まで服用しましょう。
- 抗生物質
溶連菌は細菌なので、抗生物質が効きます。抗生物質によって、細菌増殖の抑制・殺菌が可能です。投与期間は、約5日~10日です。きちんと服用すれば、通常24時間以内に溶連菌の感染リスクは、ほとんどなくなります。
抗生物質の服用により、下痢などの副作用が現れるケースがありますが、自己判断によって服用の中断はしないでください。下痢など気になる症状がみられたら、まずは医師・スタッフまでご相談ください。 - 消炎鎮痛剤
18歳以下のお子様でも使用可能な鎮痛剤を処方します。
※大人用鎮痛剤の中には、お子様が服用できないタイプの薬剤もありますので要注意。 - うがい
お水でのうがいもOKです。
よくあるご質問
溶連菌に感染したら、幼稚園・保育園・学校は出席停止になる?
溶連菌感染症は、インフルエンザとは異なり、法律上は出席停止となる病気として定められていません。
しかし、抗生物質による溶連菌の感染リスク無効化は、服用後24時間とされているため、受診当日と翌日はお休みしましょう
また、抗生物質の服用開始から24時間以上経過して、全身状態が良ければ、基本的に登校可能と判断してよいでしょう。
なお、溶連菌感染症は、学校保健安全法施行規則第18条において、その他の感染症として、学校で流行が起こった場合にその流行を防ぐため、必要に応じて校長が学校医(園医)の意見を聞き、第三種の感染症として出席停止の措置が取れる病気となっています。
溶連菌感染を予防する方法はありますか?
残念ながら、溶連菌を予防するワクチンはありません。
風邪やインフルエンザなど他の感染症と同じように、「うがい」「手洗い」「マスク着用の咳エチケット」といった基本の感染対策を行いましょう。なお、溶連菌にはアルコール消毒が有効です。
また、溶連菌は感染力が非常に強いため、ご家族に溶連菌感染の患者さんがいる場合、親御さんやご兄弟などにうつしてしまうケースがよくあります。
感染力が特に強い急性期には、おもちゃ・タオル・食器の共用などを避け、ドアノブなど共有部分の消毒を行うようにしましょう。
溶連菌感染症に一度かかったら、もう感染しませんか?
ウイルス感染症の中には、一度かかると二度とかからなくなる終生免疫が獲得できるものがありますが、溶連菌感染症は「細菌」なので、終生免疫は得られません。
そのため、何回もかかる可能性があります。
溶連菌感染症にかかったら、家庭で気を付けたいことは何ですか?
溶連菌感染症に感染したら、次のポイントに注意しましょう。
- 症状がなくなっても、処方された抗生物質は最後まで飲み切る
中途半端に抗生物質を服用すると、溶連菌が死滅せず、合併症を引き起こす原因となります。また、抗生物質の効かない菌(薬剤耐性菌)を生み出す要因につながります。 - 食欲がなくても、水分や口当たりの良いものを摂らせる
喉の痛みや熱で食欲が出ないこともあります。 とはいえ、こまめに水分を摂らないと脱水症状になりかねないので、湯冷まし・麦茶・乳幼児用イオン飲料・経口補水液などを飲ませてください。プリン・ゼリー・アイスクリーム・冷ましたおかゆなど、口当たりの良いもので代用OKです。 (※オレンジジュースなど酸味があるものは、喉にしみる可能性があるため、避けた方がよいです。)
どうしても水分が取れない場合には、点滴等の対応をさせていただきますので、当院までご連絡ください。 - 治療開始当日・翌日までは、おうちでゆっくり安静に
抗生物質が効いて、周囲への感染リスクが下がるのは服用24時間後です。
それまでは、おうちでゆっくり過ごしましょう。 - お薬を飲んでも症状が改善しないときは、再診を
「反応がぼんやり、ぐったりしている」「苦しそう」など全身症状が悪くなったときはもちろんのこと、「尿が出ない・コーラみたいな濃い色になった」「耳を痛がる」など、いつもとは違う症状や症状の改善がみられないときには、すみやかにご連絡ください。
まとめ
溶連菌の感染力は強いので、人との接触機会の多い幼稚園・保育園・小学校・家庭など集団生活を送る場所でうつりやすい感染症です。
また、発熱や喉の痛みなど風邪と似たような症状が現れますが、溶連菌感染症は治療の必要な病気です。早めに治療を開始して、しっかり治しましょう。