耳の症状

難聴

難聴

難聴とは、何らかの原因で聴力が低下し、言葉や音が聞こえにくくなる状態です。

聞こえにくさ(難聴)は、人口1,000人あたり、男性30.4人、女性34.7人に自覚症状があるというデータより、大田区全体では約24,000人、馬込地区では約1,800人と、多くの患者さんが悩まれている症状です。

空気の振動として集められた音は、外耳、中耳、内耳を通り、電気信号として脳に伝わることで音として認識されますが、難聴はこの経路(外耳、中耳、内耳のいずれか)に障害が起こることで発症します。

一過性であれば自然に回復する場合もありますが、中には、深刻な病気の合併症である場合や、早急に治療を行わないと完全に聴力を失ってしまう場合もあるため、症状の特徴からなるべく早くその原因を絞り込み、適正な治療を行うことが大切です。

難聴のタイプ、症状から考えられる病気

難聴には「伝音性難聴(でんおんせいなんちょう)」と「感音性難聴(かんおんせいなんちょう)」の2つの種類があり、発症のメカニズムが異なります。

伝音性難聴

外耳から中耳にかけての経路に障害が起き、音が上手く伝わらないために聴力が低下する

感音性難聴

内耳から脳にかけての経路に障害が起き、音をうまく感じられないことで聴力が低下する

どちらのタイプの難聴も発症の原因となる病気はたくさんあり、現れる症状にはそれぞれ特徴があります。

症状から見る「伝音性難聴」を引き起こす主な病気とは?

①耳の詰まり感や聞こえにくさ、耳だれ(粘性の黄色っぽい膿)→中耳炎の可能性

中耳に膿が溜まり、炎症が起きる病気で、急性と慢性がある。
急性は、風邪などの感染症が原因で発症し、特に小さな子供に多く、発熱や耳の痛みを伴う。
中耳に膿が溜まると、鼓膜の動きが悪くなるため、聞こえづらさを感じる。

②両耳に耳鳴りや詰まり感などを伴い、聴力が徐々に落ちる→耳硬化症の可能性

中耳の鼓膜裏にあるアブミ骨(音を伝える働きを持つ)の動きが悪くなり、音が伝わりにくくなる病気で、思春期以降の女性に多く見られる。

③耳の痛みや出血、耳鳴りなどを伴う難聴→鼓膜穿孔(こまくせんこう)の可能性

鼓膜に穴が開いている状態のこと。
耳を強くぶつけるなどの外傷が原因のほか、中耳炎で鼓膜が破れる場合もある。

④耳の異物感や、詰まったような感じがあり、聞こえにくい→外耳道閉塞(がいじどうへいそく)の可能性

耳あかが溜まり、外耳道(耳の穴)に詰まってしまっている場合や、耳の穴の外にできもの(良性・悪性)ができることによって、聞こえが低下する場合などがある。

症状から見る「感音性難聴」を引き起こす主な病気とは?

①高齢になるにつれ、耳が遠くなる→加齢性難聴の可能性

誰にでも起こる老化現象の一つで老人性難聴とも言われる。
最初は高い音のみが聞き取りにくいため、発症に気付かないことも多いが、数年単位で徐々に聞き取れない音域が広がっていく。

②ある日突然、片方の耳が聞こえなくなった→突発性難聴の可能性

何の前触れもなく、突然耳が聞こえなくなるのが特徴で、めまいや激しい耳鳴りを伴うこともある。過労やストレスなどをきっかけに起こることが多い。

③ぐるぐる回る激しいめまいと耳鳴り、難聴が同時に起こる→メニエール病の可能性

女性に多くみられる疾患。内耳にリンパ液が溜まるのが原因で、めまいや耳鳴り、難聴の発作を繰り返すのが特徴。
ストレスや疲れ、睡眠不足などをきっかけに発症することが多い。

④発熱、耳の下や顎の下が腫れと痛みを伴い聴力が低下する→ムンプス難聴の可能性

おたふく風邪(ムンプスウイルス)の合併症として、突然発症する難聴で、特に4歳以下の子供の発症が多い。

⑤めまいや耳鳴り、顔面神経麻痺、味覚障害、耳周辺の水ぶくれを伴う難聴→ラムゼイ・ハント症候群(耳性帯状疱疹)の可能性

ヘルペスウイルス(水痘帯状疱疹ウイルス)の感染が原因で、疲労やストレス、免疫力の低下、日射病、糖尿病の悪化などをきっかけに発症することが多い。

⑥両耳または片耳に水が入ったような詰まりがあり、ゴーッという低音の耳鳴りを伴う→急性低音障害型感音難聴の可能性

低音の聞こえが悪くなる病気で、軽いめまいを伴うこともある。
女性に多く見られる疾患で、ストレスなどがきっかけで発症することが多い。
多くは、数日~数週間で治るが、中には長引く場合や発症を繰り返すこともある。

⑦大きな音を聞いた後、強い耳鳴りや詰まり感、痛みなどがあり、急に耳の聞こえが悪くなる→音響性難聴(音響外傷)の可能性

特別大きな音(爆発音、ロックコンサートなど)を一定時間、聞いた後、急激に発症する難聴。
最近は、スマホや音楽プレーヤーのヘッドホンもしくはイヤホンで大音量の音楽を聴き続けることによって起こる「ヘッドホン難聴」「イヤホン難聴」が若者を中心に増えている。

⑧日常的に一定以上の大きさの音を聞いていることで聴力が徐々に低下する→騒音障害性難聴の可能性

日常的に一定以上の大きさの音を聞いていることで、徐々に進行する難聴。
工事現場や工場に勤務する人などに多くみられる。

難聴の検査と診断法

難聴の症状や程度の確認、どのようなタイプの難聴かを診断するために、耳鼻科では以下のような検査を行います。

①医師の問診

発症の時期、症状はどちらの耳(もしくは両方)にあるか、耳鳴りや耳閉感(耳が詰まった感じ)、痛み、めまいなどの合併する症状の確認をします。

②視診(顕微鏡による検査)

顕微鏡を用い、外耳道や鼓膜の状態、鼻やのどに原因となるような炎症や異変が起きていないかなどを確認します。

③聴力検査(聞こえの確認)

難聴の程度やタイプなどを調べるため、以下のような検査を行います。

標準純音聴力検査

(目的)どのくらい聞こえているのかを確認する。
(方法)患者さんにヘッドホンをつけてもらい、オージオメーターという機械で音を出し、聞き取れる音のレベル(どれくらい小さい音まで聞こえるか)を調べる。

語音聴力検査

(目的)言葉の聞き取りやすさを調べる。
(方法)あらかじめ録音した言葉(音)を流し、オージオメーターのヘッドホンから聞こえる言葉を発音もしくは紙に書く。

ティンパノグラム

(目的)外耳や中耳、鼓膜がどれくらい響くかを調べる。
(方法)ティンパノグラムという機器で、外耳にかかる気圧を少しずつ変化させながら、鼓膜の振動のしやすさを測定する。

耳小骨筋反射検査(アブミ骨筋反射)

(目的)耳の奥の筋肉(アブミ骨筋と鼓膜張筋)の動きを見る。
(方法)鼓膜に大きな音(90~100デシベル)を加え、耳小骨筋(主にアブミ骨筋)の収縮具合を測定することで、顔面神経の障害が起きている場所などが推測できる。

④その他

必要に応じ、耳のレントゲン検査(単純レントゲン、中耳CT)、脳のMRIなどを行う場合もあります。

難聴の治療法

難聴の治療は、伝音性難聴と感音性難聴によって大きく異なります。

伝音性難聴の治療とは?

伝音性難聴の場合、比較的原因がはっきりしているので、それぞれの原因を取り除く治療が基本となります。

中耳炎

鼻やのどの炎症を抑える薬物療法のほか、鼓膜の奥に溜まった膿を出すため「鼓膜切開(手術)」を行うこともあり。

耳硬化症

アブミ骨の動きを良くするための手術を行う。治療が遅れると感音性難聴になる恐れがあるため、早期に行う必要あり。手術を希望しない場合は、補聴器で聴力を補う。

鼓膜穿孔

ほとんどが自然に塞がるが、穴が大きい場合や鼓膜が薄い場合などは、自分の皮下組織を移植する鼓膜形成術を行う。

外耳道塞栓

固まってしまって取れない耳あかは薬で溶かし吸い出し、外耳道炎などを起こしている場合は炎症を抑える薬物療法を行う。

多くの場合、上記のような治療(薬物療法もしくは手術)で、聴力を回復させることが可能で、完全に聴力が回復しない場合でも、補聴器で聴力を補うことができます。

感音性難聴の治療とは?

感音性難聴は音を感じるための有毛細胞や神経にダメージが起きてしまうことで発症します。

突発性難聴や音響性難聴のような急性の感音難聴で、有毛細胞が完全に壊れる前ならば、安静や薬物療法(※血管拡張剤、内耳の循環改善剤、ビタミンB12、ステロイドの内服や点滴)などで、聴力が回復する場合もあります。

しかし、有毛細胞が完全に破壊されてしまったものは、元の聴力に戻すことは難しく、根本的な治療法がないのが現状です。

そのため、日常生活に支障がある感音性難聴の場合、補聴器などの人工聴覚機器を利用して聴力を補いますが、補聴器は内耳の働きが残っている場合のみ有効なため、重度の難聴により両耳の聴力がほとんどない場合には、人工内耳を装着する手術を検討します。

よくあるご質問

1)難聴は予防できますか?

難聴には、さまざまな原因があり、それぞれ症状や発症のきっかけも異なることから、聴力の低下を防ぐ完全な方法はありません。

しかし、急性の難聴の場合、ストレスや過労がきっかけで発症することが多いため、日頃から規則正しい生活を心がけ、体調を整えておくことは大切です。

また、「大きな音で音楽を聴かない」「騒音のある環境下では耳栓を使用する」「静かな場所で耳を休ませる」など、常に耳に優しい生活を心掛けることで、難聴の発生リスクを抑えることが可能です。

2)難聴予防に効果のある栄養素はありますか?

バランスの良い食事を摂ることが基本ですが、末梢神経の修復を助けるビタミンB12を積極的に摂ることをおすすめします。

ビタミンB12は、レバーやアサリ、シジミ、サンマなど豊富に含まれています。
毎日の食事で意識して取り入れるのがベストですが、食事ではどうしても不足がちになってしまう場合には市販のビタミン剤などで補うことも可能です。

3)補聴器の必要になる目安が分からないのですが?

日常会話の聞き取りに不安があるという患者さんが補聴器の相談に多く見えられます。

当院では、医師が耳の診察をし、耳の形や鼓膜の形の確認、聴力検査などの精密な検査を行った上で、本当に補聴器が必要かを判断しております。

難聴は、認知機能の低下に影響すると言われているため、まだ補聴器が必要ではないと判断した場合であっても放置はせず、生活のアドバイスのほか、必要に応じて定期的なフォローなどを行います。

実際に補聴器が必要と判断した場合には、さらに詳しい検査を行い、補聴器についての詳しい説明をさせていただきます。

当院では、毎月第2・4金曜日に補聴器相談(完全予約制)を行っていますので、聞こえに不安がある方はぜひご相談ください。

4)どんなタイプの補聴器が向いているか分かりません。

補聴器は形の違いだけでなく、軽い難聴用から重度の難聴用まで機能も様々なタイプがあります。

補聴器は、買って終わりではなく、専門家である耳鼻科の医師が一人一人の患者さんの聴力や生活環境、補聴器を使用する場面などに合わせてフィッティング(調整)することで、社会参加やコミュニケーションを良好にするなどの生活の質(QOL)を高めることが可能です。

患者さんにぴったり合った補聴器を見つけるためにも、ぜひ耳鼻科医にご相談ください。

まとめ

聞こえの悪さは、周囲の人とのコミュニケーションを難しくし、仕事や家庭などの社会生活にも大きな影響を及ぼします。

急性の感音難聴は、治療の開始が遅れると、完治が難しく、後遺症などが残る場合があります。

また、ゆっくり進行する難聴は、症状は緩やかであっても、その分、症状に気付きにくく、ある程度進行して周囲の人から指摘されて気付くことも少なくありません。

日常生活に大きな支障がなくても、耳の聞こえの低下や耳鳴り、めまいなどの気になる症状がある場合は、早めに耳鼻科を受診し、「聞こえ」の検査を受けるようにしましょう。

記事執筆者

記事執筆者

馬込駅前あくつ小児科耳鼻咽喉科
院長 岩澤 敬

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器相談医
日本めまい平衡学会 めまい相談医

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馬込駅前院 予約

西馬込あくつ耳鼻咽喉科
院長 阿久津 征利

日本耳鼻咽喉科学会 専門医
日本めまい平衡医学会 めまい相談医
臨床分子栄養医学研究会 認定医

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耳の症状

  1. 耳鳴り

    耳鳴りは、人口1,000人あたり、男性26.3人、女性31.8人に自覚症状があるというデータより、大田区全体では約21,000人、馬込地区では約1,600人と、多くの患者さんが悩まれている症状です。

  2. 耳閉感(耳づまり)

    耳の奥がこもり、詰まった感じがすることを「耳閉感(じへいかん)」といいます。 人によっては、「膜が張っているような感じ」「水が入った感じ」などと表現する場合もあります。

  3. 難聴

    難聴とは、何らかの原因で聴力が低下し、言葉や音が聞こえにくくなる状態です。

  4. 耳がかゆい

    「耳がかゆい」という理由で耳鼻咽喉科を受診する方は意外と多く、特に若い女性に多い傾向です。最近では、テレワークや在宅になったことで、イヤホンを使う機会が増えたり、自宅で耳掃除をする機会が増えています。原因の多くは、耳掃除のやり過ぎ・耳の触り過ぎによる「外耳道湿疹」「外耳(道)炎」です。ほかにも、耳あかが溜まっている・耳の中の乾燥・外耳真菌症・喉の炎症やアレルギー性鼻炎によるものがあります。

  5. 耳あか(耳垢)

    「耳あか(耳垢:じこう)」とは、読んで字のごとく、耳の中に付着した垢(あか)のことです。

  6. 耳だれがでる(耳漏)

    「耳だれがでる(耳漏:じろう)」とは、耳から液体が出てくることで、主に耳のどこかで炎症・化膿が起こっているサインです。

  7. 耳が痛い(耳痛)

    耳が痛くなる(耳痛)原因は、主に耳に炎症が起こる疾患で、お子さんの場合は「急性中耳炎」、大人の場合には「外耳炎」が多く見られます。 ほかにも、ムンプスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなどのウイルス感染、耳の周囲にある顎・喉の炎症や腫瘍が原因となる場合もあります。